お茶と妖狐と憩いの場
 深守は叫ぶ。もう一度キンッ! と大きな音が鳴った。今度は深守の頬寸前のところで刀が止まる。
 二人は真剣な眼差しで向かい合う。
 昂枝も応戦しようと、懐にしまっていた短刀を取り出し駆け寄った。しかし、すぐさま深守に止められてしまう。
「お前…! 怪我してるくせに無茶だろうが!」
「っいいから二人を守ってやりなさい!」
(…己が怪我してるからじゃない。コイツの力は…、“鬼族並”だわ……)
 深守は身を持って感じた。そうなれば、昂枝が入ったところで意味をなさない。海萊さんが鬼族と同等ならば、普通の人間である昂枝に敵うわけがないのだ。だけど昂枝が何も出来ないなんてことも思ってはいない。鍛錬しているのは深守だって知っていたからだ。
 だからこそ、私と想埜の二人を昂枝に任せようとしたのだった。
 深守は海萊さんの攻撃を交わしつつ、小さな刃で切り傷を作り続ける。怒涛の如く、海萊さんと既の所まで近づくと、肩に鉄扇子を思い切り振り下ろした。
「チッ!」
 鉄ということもありかなりの硬さと重さだ。少しばかり海萊さんもよろめいた。そこに深守は回し蹴りを一発お見舞すると、刀を奪い、ひとつため息をついた。
「アタシはね、アンタ達を殺生したくないんだよ。だから、少し話を聞いとくれ」
 倒れる海萊さんに深守は言った。
「……煩い」
「………アタシ達は、一度話し合うべきよ」
「煩い煩い煩い!」
 海萊さんは叫ぶと無理矢理身体を起こす。妖に押し退けられた事で、かえって海萊さんの闘争心を刺激してしまったようだ。
「殺してやるっ!!」
「…っ!」
 先程までとは打って変わり、海萊さんは凄まじい勢いで襲いかかってきた。深守は刀を奪われまいとするが、あまりの力強さに圧倒されてしまう。
「お前…!!」
 昂枝は我慢ならなかったようで海萊さんに掴みかかるが、昂枝の力を持ってしてもいとも簡単に弾き飛ばされてしまった。
「昂枝…!」
「大丈夫!?」
「っ…たた…なんだ、あの強さ……」
 昂枝は衝撃で痛む臀部を摩る。
 武器に差があれど、二人はほぼ互角だと思っていた。しかし深守は、私達三人の方へ海萊さんが来ないよう、受け止めることしかできなくなっていたのだ。
 幾ら妖葬班の第一班長程強い人とはいえ、ここまでの実力差が出るものなのかと度肝を抜かれた。
「アンタ達も、やっぱり…っ…話合ってくれないのね…!」
 相手に押し切られる前に全力で押す。深守は顔を引き攣りながら耐え凌ぎ続ける。
「お前達の話など聞くに値せん」
 海萊さんは鞘の紐を解くと深守に叩きつけた。
 深守の手元が緩んだその隙に、海萊さんは刀を取り戻す。そして「貰った!!」と勢いよく深守の腹部を貫いた。
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