お茶と妖狐と憩いの場
 それは初めて出会った時には感じなかった彼の一面だ。礼儀のある人だとは思ったが、あの時は互いに必死だった。狩人と獲物の関係性なのだから当たり前で、今もそれは変わらない関係性ではあるが。
「きっと妖葬班の根城だな……」
 折成さんは姿勢を戻すと私を昂枝の方へと向けた。肩を掴まれるが以前のような力強さも痛みもない。
「おい、昂枝」
「なんだ。早く結望を離せ」
「さっさと此処を出て妖葬班の元へ向かうぞ」
「いや、だからお前の言ってることは信用ならねぇって…」
「テメェそれ以上言うと本気でぶっ殺すぞ」
「ふざけるな大体――」
「ま、待って…!」
 私は二人を止める。小気味良く行われる会話は聞いていて気持ちのいいものだったが、こんな時に聞きたいわけではない。
「殺すなんて、絶対にやめて……やめ、て…下さい」
 しかも先程の惨劇を見た直後だ。昂枝まで居なくなるなんて、絶対に考えたくはなかった。
「昂枝も…、折成さんの事少しだけ信じてみましょう…?」
「ゆ、結望…!」
 昂枝は心配だという表情でこちらを見る。
 折成さんとはきっと、私が思うよりずっと前から関係を持っていて、どんな人物なのかを知っている。だからこそ、私と一緒にさせては駄目だと言っている。そこは理解しているつもりではあるし、実際にまだ恐ろしくも感じる。
 だけど、今の状況からしたら折成さんに合わせた方がいい気もするのだ。蔵から出る絶好の機会を掴んだも同然で、尚且つ深守と想埜の元へ連れてってくれると言うではないか。
 万が一それが嘘だとしても、此処から出られるに越したことはない。折成さんが現れた事を幸運と捉えるか、不運と捉えるかは後で考えることにして。
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