お茶と妖狐と憩いの場

「………わかった」
 昂枝はいろんな感情を抑え込み頷くと、私を引っ張り折成の元から離す。
「――で、何か作戦でもあるのか?」
「あぁ、そうだな。お前んとこの両親はさっき眠らせたし…。他にも数人見張りが居たっぽいが大した敵じゃないだろ」
 折成さんは顎を擦りながら答える。気だるげなのは変わらず、だけど、少し自信ありげだ。
「デカい音がしたと思えばそういう事だったのか……」
 頭を抱えながら昂枝は溜息を吐いた。実の両親が大変な目に会っているのは気が引けるが、今はそれが好都合であることも事実だ。
「そもそも何でお前はこちら側に―――」
「それは移動しながらでいいだろ。笹野結望、お前は走れるか」
「え、…えっと、人並みには…」
「…人並み、か。まぁいいだろ」
 折成さんは「行くぞ」と扉の方を向き歩き始める。そして立て掛けた槍を持ち直すと、大きく欠伸をひとつ零した。
「────こっちだ」
 私達は暗くなり始めた景色を余所に、外へと駆け出した。


 ――一方、同時刻。
 深守は薄暗い部屋でうつらうつらと目を覚ました。
「…………?」
「――ほぅ、まだ生きてたか」
 程近くにいたらしい海萊は、面白いものを見る目で深守を観察していた。腰掛けられる位置にあった木の箱に座り、優雅に腕を組んでいる。
「……あ、アンタ……!」
 そんな海萊を見て憤慨しかける深守だったが、自身が狐姿のままだった事、前足後ろ足を縄で縛られていた事で、怒りに身を任せても意味がないことを悟る。
 正直なところ、あの後目覚められただけ良い方で、最悪、あのまま死んでいたかもしれなかった。
 怪我で死ぬ、と言うよりは寿命が尽きる一歩手前――といったところだろうか。こんな時に限界が来るなんて。
(…つくづくアタシは無能だ)
 後でどう謝ろうか。それより、その後はちゃんと来るのだろうか。
「……結望達は何処」
 ふと、気を失ってからの事が気になった。海萊は大人しくそれに耳を傾けると「何処だと思う?」と悪戯に笑った。
「ふざけないでちょうだい」
「チッ…仕方ない。……そうだ、花嫁さんの必死な訴えは見ものだったぞ。なんせお前を抱き締めて泣き喚いていたんだからな。相当愛されてる幸せ者だな」
 海萊は楽しそうに語る。その姿は村一の英雄とは思えない邪悪なものだ。
「結望…」
 それに、また泣かせてしまっている現実に深守は落胆してしまう。海萊は少し黙った後、
「……因みに花嫁さんとご子息はご実家、想埜は―――」
 と続け、ちらりと自身から見て左側を見遣ると、顎を使って促した。
「野狐は周りを見ることを覚えた方がいいな」
 海萊の言葉に深守は図星を突かれる。海萊が促す方を必死になって向くと、そこには鎖で繋がれて気を失っている想埜の姿があった。
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