遠回りな恋〜私の恋心を弄ぶ悪い男〜

第二章

 会社が所有する一ノ瀬ビルは駅の近くにあり、立地条件は最高だ。瑠璃が待つ書店もこの近くにあり、合流するのにそこまで待たせることもない。

 私は瑠璃の待つ書店へと足早に駆けていく。
 瑠璃は多分、雑誌コーナーにいるはずだ。

 私は書店に到着すると、スマホを取り出した。案の定、瑠璃からメッセージが届いている。

『了解! 雑誌コーナーでうろついていると思うから』

 私の読み通りだ。瑠璃が定期購読しているファッション誌の発売日が今日だったことを思い出す。瑠璃はその手に雑誌を抱えていた。

「真冬、お疲れ! これ買ってくるから、ちょっとだけ待ってね」

 瑠璃はそう言うと、雑誌を手にレジへと向かう。私は後方で瑠璃の会計が終わるのを待つ。
 会計が終わり、瑠璃は雑誌をバッグの中にしまうと、私の元へとやってくる。

「お待たせ! 行こうか」

 私たちは並んで書店を後にする。

「今日はどこのお店にする?」

 瑠璃の言葉に、私は食べたいものをイメージする。
 今日は和食の気分だけど、瑠璃はどうだろう。

「私、和食が食べたいな。最近不健康な食生活が続いてたから、煮物が食べたい」

 最近は残業続きで料理をする気力がなかったので、カップ麺やコンビニ弁当、スーパーのお惣菜などを食べることが多かった。だから他人(ひと)が作ってくれるおかずが無性に恋しい。

 就職してから、私は実家を出て一人暮らしを始めた。
 姉が離婚して姪を連れて帰ってきたため、いずれ姪が大きくなった時のための部屋が必要になる。私もいつかは家を出ることになるので、就職を機に一人暮らしを始めたのだ。

「了解! じゃあ、久遠(くおん)に行こう」

 久遠とは、創作ダイニングバーで、和洋中何でも揃っている。その日のおすすめメニューに、必ず煮物がある。

「やった! これでやっと美味しい煮物が食べられる」

 私たちはいそいそと久遠へと向かった。
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