遠回りな恋〜私の恋心を弄ぶ悪い男〜
「それはそうと、玲央とは最近どう?」

 唐突に玲央の話が出たものだから、私は口に残っていたアルコールを思わず吹き出しそうになった。それを何とか抑え、グラスをテーブルの上に置くと、バッグの中からハンカチを取り出して口の回りを拭いた。

 瑠璃の質問の意図がわからず、小首をかしげる私に、瑠璃はニヤニヤしながら言葉を続ける。

「どう、って……聞かれても。最近は、女好きが鳴りを潜めているよ。やっぱり親の会社だからか、人の目が気になるのかな。昔みたいに節操なく女の子を引っ掛けたりしていないね」

 私は、社会人になってからの玲央について分析する。
 そう、玲央に彼女がいたのは、私が知っている限りでは大学生の頃までだ。しかもまた、付き合う彼女は私が親しくなった友人と来たものだ。この頃になれば、さすがに私もしんどくなって、女子たちと親しくすることをやめた。

 どうしたって玲央には選ばれないのだ。これ見よがしに、私の親しい友達と付き合っていく姿を、もう見たくない。
 瑠璃は私の玲央に対する気持ちに気付いていないと思うけれど、時々こうやって、不意に玲央の話題を振ってくる。

「ふーん……、相変わらず辛口だね。……玲央も、節操なく女の子を引っ掛けているわけではないと思うんだけどね」

 瑠璃は苦笑いしながら口を開く。

「いや、節操ないでしょう? あいつの歴代の彼女、多分私全員知ってるし」

 ちょうどこのタイミングで注文していた冷奴が運ばれてきた。取り皿も用意してもらっていたので、瑠璃と半分シェアして私は薬味を豆腐の上に乗せ、醤油をかけて口に運ぶ。
 すると冷奴を食べながら、瑠璃が意味のわからない言葉を発する。

「まあ、敢えて真冬の友達を選ぶって辺りは、あいつの涙ぐましい努力よね……」

「ん? 何それ?」

「ううん、こっちのこと。久しぶりの冷奴、沁みるわあ……」

 瑠璃はそう言って言葉を誤魔化したけれど、その後小声で「あいつ何やってんだよ」と独りごちていた声には敢えて反応しなかった。

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