遠回りな恋〜私の恋心を弄ぶ悪い男〜
 私が勤務している『一ノ瀬コーポレーション』はITを基盤とする新興企業で、玲央の父が経営している。業績も右肩上がりで、先日株式を分割したばかりだ。

 この会社で私は、経理の仕事をしている。

 私は学生時代に簿記や電卓、経理に活かせそうな資格を取得していたので、今の仕事をする上であまり苦労はない。上司や同僚も、他社で経験を積んできたベテランばかりなので、わからないことがあってもすぐに教えてもらえるので、本当に恵まれている。

 福利厚生もしっかりとしており、一ノ瀬ビル内に設置されている自動販売機の飲み物は無料で飲み放題、デスクワークが続く従業員の健康維持のためのジムや仮眠室なども併設されている。

 玲央の父が経営するだけあり、玲央も同じ会社に勤務している。今は役職のない一般従業員として従事しているけれど、そのうち役員に昇格し、彼の父の後を継ぐことはみんなが周知の事実だ。
 そんな彼と私が高校時代の同級生であることは、きっとだれも知らない。

 職場でも、できるだけ接点を持たないよう心掛けている。そのことを玲央も気付いているはずなのに、何かと用事を作って経理に顔を出してくる。そして自分の部署に戻る際、いつも意味深な視線を投げかけてくるのだ。

 昔から、彼は爽やかなイメージをみんなに振り撒いているけれど、その本性が生粋の女たらしだと知っているのは、おそらくこの会社の中で私だけだろう。
 ……いや、ちょっとこれは私の偏見が入っている。女たらしと言うよりも、私の友人キラーだ。私が仲良くなる女友達に、必ずと言っていいくらい言い寄っては数日うちに付き合い始め、いつの間にか別れている。それの繰り返しだ。
 私が彼に対して冷たく当たるのは、彼が女たらしだからだと思っているだろう。けれど、実は違う。いつも『私だけが選ばれない』からだ。

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