遠回りな恋〜私の恋心を弄ぶ悪い男〜
 容姿については今に始まったことではない。
 私が好んでこのメガネと髪型にしていると言ったとして、だれが信じてくれるだろう。
 メガネをかけることで、煩わしい人間関係が回避できるし、髪型ひとつでこうやって蔑まれ、だれからも相手されることもない。
 これらは全て、中学時代に友達の恋愛の揉めごとに巻き込まれて以来、身に付けた処世術だった。

 ガリ勉になれば、みんな近寄りがたく思ってくれる。加えて強烈な見た目をしていれば、変な意味で目立つかもしれないけれど、恋愛ごとに巻き込まれることはない。

 自ら狙って起こした行動だけに、そう言われていることも知っていたけれど、やっぱりこうして実際に耳で聞くと、しんどいな……
 私は足音を立てないよう、この場を立ち去ろうとしたその時だった。

「そうか? あれだけ勉強して成績上位をキープするなんて、並大抵の努力ではできないことだと思うけどな」

 そのひと言で、教室内での喧騒が止んだ。

「まあ、見た目については本人の意思もあるから、俺らが何か言う筋合いはないけどさ。あのルックスや成績で、俺ら、何か迷惑被っているわけでもないだろう?」

 彼の言葉に、数人が反論するけれど、それをピシャリと論破する。

「我が道を突っ走るのって、カッコ良くね? 俺は尊敬に値すると思うぞ」

 彼こそが、一ノ瀬玲央だったのだ。

「……そこで聞いているんだろう? 入って来いよ、瀬川(せがわ)真冬」

 玲央の声に、教室内から「やべえ」「どうしよう」などという保身に走る声が聞こえる。

 私は玲央の声に従って、教室に入る勇気が持てなかった。たまたま隣のクラスの引き戸が開いていたので、私は足音を立てないよう後ずさると、隣のクラスの引き戸の裏へと隠れた。
 なかなか教室に入ってこない私に業を煮やしたのか、教室の引き戸が勢いよくガラガラと音を立て開く音が聞こえた。

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