聖女召喚されたけど、思ってたのと違う ~冷遇聖女は喜んで竜族な王子への手土産になります~
「うーん……日当たりが良いところがいいのか、それとも日陰の方がいいのか」

 まるでデリケートな植物の育て方について悩むかのように、王子が至極真面目な顔つきで言う。
 聖女は御神木だった……?

「あの、複数候補があるなら実際に見て私が選んでいいですか?」

 私は控え目に挙手して、意見を述べてみた。
 ディーカバリア国の気候や環境がまったくわからない時点では、私の方でも正解を答えようがない。今いるクノン国であれば日当たりの良い部屋がいいだろうが、向こうが砂漠のような環境とも限らない。
 ――くらいの気持ちで、私は相槌を打っただけのつもりだった。

(しやべ)った⁉」

 王子が、私をなでなでしていた手をピタッと止める。
 いや何でそこで驚くの。
 と、内心突っ込むも、

「意思疎通できる宝……な、何て貴重なんだ」

 次にはそれ以上にツッコミが必要な台詞が、彼の口から出てきた。
 あ、やっぱり『宝』が基本カテゴリなんだ? 『宝のような人』ではなく、『人型の宝』なんだ?
 なでなでしていた手がぷるぷるし出した王子に、私は再度心の中でツッコミを入れた。

「! 他に祀る――いや聖女が暮らす上で、希望はあるだろうか」

 一応、御神木よりは人へ認識が近付いた模様。良かった。
 そういえば私の知り合いに、推しのぬいぐるみと推しの暮らす街のジオラマ(自作)だけを置いた部屋を作った人がいた。これはさっき意見を述べなければ、神殿や祭壇などを用意されてもおかしくはなかったかもしれない。

「希望はというなら……あの作品たちをすべてディーカバリアへ持って行きたいです」

 希望はあるかと問われれば、何はともあれ彫刻に関することが最優先。向こうに行っても彫刻ができるような環境が欲しい。が、ひとまず私は目下の問題である、生き別れになりそうな作品たちを手で示した。
 途端、

「素晴らしい!!!」

 王子が部屋中に響くような声で、叫んだ。
 さらにテーブルに駆け寄り周りをぐるぐる回りながら、「素晴らしい!」を連呼するクエルクス王子。(あお)りや()(かん)の角度チェックも大事なのか、背伸びをしたりしゃがんだり。
 突然の王子の奇行に使節団の皆さんはどう反応しているのか。気になって振り返って見れば――

「誰か記録水晶を持て! そしてすべての角度から記録しろ!」
「既にやっております!」

 テンションの高い王子の指示に、勝るとも劣らないテンションで返事をしていた。
 しかも皆さんお揃いで、いつの間にか至近距離まで来ていた。そして王子は「誰か」と言ったのに、使節団の方々は「誰も」が『記録水晶』らしきものをビデオカメラよろしく構えていた。おそらく機能も『写真機』または『録画』だろう。これがディーカバリア国……!
 王子は使節団の迅速な働きに満足げに頷き、それからハッとした表情で私を振り返った。

「すっかり名乗るのを忘れていた。俺はクエルクス。ディーカバリア国の第二王子だ」
「あっ、私はミナセと言います。よろしくお願いします」

 言われて気が付く。そういえば私も名乗っていなかった。
 出会いが御神木(仮)とその受贈者だったのもあり、すっかりタイミングを逃してしまっていた。
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