生徒会長と高嶺の姫
第二話
(前回のシーンの続き)
律「じゃあさ、俺の恋人にならない?」
突然の提案にフリーズする。
律「あれ、聞こえてた?」
(聞こえてたけど…!)
ゆつぎ「こ、恋人って、無理だよそんな…」
おろおろとパニックになりかけるゆつぎに、律は一歩下がって両手を上げるポーズをする。
※ゆつぎを落ち着かせるためと「何もしません」の意。
律「姫宮さんって、さっきみたいに告白されたりそういう目で見られるのって苦手なんじゃない?」
ゆつぎ「どうして…」
律「見てたら分かるよ」
くすっと笑う。
律「だからいっそ誰かと付き合っちゃえばそういう対象からも外れるんじゃないかと思ってさ。自分で言うのもあれだけど、俺が彼氏だと分かっても玉砕覚悟で来るやつなんていないと思うし」
もちろん手は出さないよ?と、上げた両手をヒラヒラさせて見せる。
(それってつまり…)
律「つまり『偽装の恋人』ってこと」
ゆつぎ「でも、それって夏目くんに迷惑じゃ、」
律「迷惑だったらこんな提案しない。俺も今フリーだから全く問題ないよ」
(本当にいいのかな?)
悩みこんでしまい俯く。
律はふと、カウンターの上に置かれている数学の本を見つける。
律「それって姫宮さんの本?」
ゆつぎ「うん、そうだけど」
律「じゃあ本と同じように考えるのはどう?貸し借りの関係って考えたら気楽じゃない?」
(どういうこと?)
ナイスアイデアとばかりににっこり微笑むけど、意味が分からなくて首を傾げる。
律「返却期限は無期限。もちろん姫宮さんが返却したくなったらいつでも返却可能だから。どう?」
ゆつぎ「ど、どうって言われても…」
再びカウンター越しに身を乗り出してきた律と距離が近づく。
律「それに何でも言ってって最初に言ったのは姫宮さんの方だよね?」
(何で私の方がこんなに押し切られそうになってるの…!?)
律「俺のことを貸すから、姫宮さんのことも俺に貸してよ」
近づいた顔はどこか大人っぽくドギマギする。
とりあえず了解しないと引いてくれない雰囲気にゆつぎはしぶしぶ頷く。
律「じゃあ交渉成立ってことで」
にこっと笑い、ふっと張り詰めた空気がほどける。
律がポケットからキャラメルを取り出して一粒口に放り込むのを見て「あっ、」と声を上げる。
ゆつぎ「図書室は飲食禁止だよ」
律「あれ、そうだったっけ?」
ゆつぎ「夏目くん、意外と適当なところあるんだね」
(生徒会をさぼったりお菓子を持ち込んでたり…)
律「あはは、もしかして俺ってそんなに品行方正に見られてた?」
律の悪戯っぽい視線に、はっとする。
ゆつぎ「ごめん、そういうわけじゃないんだけど…」
(一方的な印象で決めつけられるのは嫌だって思ってるのに)
自分は律を『生徒会長で人気者だから真面目なはず』と決めつけて勝手にそういう目で見ていたことに気づく。
律「姫宮さん、口開けて」
ゆつぎ「…えっ?」
顔を上げた瞬間、キャラメルを口に放り込まれる。
その瞬間、律の指先が唇に触れる。
律「はい、これで共犯」
頬がかあっと赤くなる。
律「すごい顔真っ赤」
何と返したらいいか分からず口をパクパクさせるゆつぎの耳元に顔を寄せる。
律「これからよろしく『彼女さん』?」
キャラメルみたいに甘い笑顔を見せる。
〇翌日・教室(昼休み)
昼休み開始の鐘が鳴り、ゆつぎのクラスのドアがガラッと開く。
律「あ、ゆつぎいた。今から昼一緒に食べに行かない?」
突然の律からのランチのお誘い。教室内がざわつく。
クラスメイト女子1「えっどういうこと?まさか会長と姫宮さんって付き合ってるとか?」
律「うん、そうだよ」
キラキラ王子様スマイルに顔を赤くする女子。
何ともいえないざわめきが広がる。ちらっとゆつぎを見てくる視線が痛く顔がひきつる。
律「じゃあそういうことだから、行こうかゆつぎ」
〇廊下
律「ゆつぎ、また顔真っ赤だけど大丈夫?」
ゆつぎ「夏目くんのせいだよ、それに名前…」
律「あぁ、やっぱり名前で呼んだ方がそれっぽいかと思って。だからゆつぎも今日から俺のことは律って呼んで」
さらっと簡単に言う律にゆつぎはさらに混乱。
ゆつぎ「それにしても、いきなり教室であんな…っ」
律「だってどこかで宣言しておかないと、噂が広まらないとゆつぎへの告白も減らないから『偽装恋人』になった意味がないだろ?それとも校内放送で堂々と告白した方がよかった?」
ニヤリと流し目で見てくる律。
ゆつぎ「い、いい!それはいらない…!」
ぶんぶんと首を振る。
(今の教室の状況を想像するだけで嫌な汗が出そう…)
※実際、ゆつぎのクラスの教室は二人の話題で持ち切り。
必死な姿に吹き出す律。
律「冗談だよ。さてとどこ行くかなぁ、さすがに食べてる時は周りに人がいなくて静かなところがいいけど」
ゆつぎ「図書室は駄目だよ?」
キャラメルの一件を思い出し釘を刺す。
律「分かってるって。あ、じゃああそこにしよっか」
〇旧生徒会室
律が鍵でドアを開けて電気をつける。
律「どうぞ」
ゆつぎ「ここって…?」
律「昔の生徒会室。今は使われてなくて過去の資料室置き場みたいになってるんだ。今は誰も来ないし落ち着けるかと思って」
隣り同士に座ると袋の中身を覗き込む。
律「え、お昼ってそれだけ?」
ゆつぎ「うん」
朝、購買で買ったパン一つ。律の弁当はとても彩り豊かな手作り弁当。
ゆつぎ「わぁ綺麗なお弁当だね。お母さんの手作り?」
律「いや、俺が自分で作ったやつ」
ゆつぎ「え!?夏目くんが?」
律「なーまーえ」
ゆつぎ「あっ、えっと、り、律くんが?」
律「うち両親が共働きで小学生から自分で料理してたし。今も家族の分の弁当も作ってる」
ゆつぎ「そうなんだ」
(かっこよくて人気者でスポーツもできて頭もよくて、おまけに料理上手って天は何物を与えるんだろう…)
律「よかったら一つ食べる?今日の卵焼きはかなり上手く焼けたんだ」
断ろうとするより先に、弁当の蓋の上に卵焼きを乗せてどうぞとすすめられる。
「じゃあ、いただきます」
ぱくりとひとくち口に入れる。
「……おいしい…!」
驚きからみるみる笑顔に変わっていく。
(ほんのり甘くて、でもダシのあじもしっかりしている。そして何よりこのふんわりとした食感…!)
ゆつぎ「すごくおいしいよ!お料理上手なんだね!」
律「ありがとう…ぷっくく、あはは…!」
大きく笑いだす律にびっくりする。
律「いや、こんなにテンション高いところ初めて見たからつい」
ゆつぎ「ごめん、私料理全然できないからすごいなと思って」
味付けに失敗したり焦がしたり、レシピ通りにやってるつもりなのになぜかうまく出来ない。
律「そうなんだ、意外だな」
ゆつぎ「幻滅した?」
律「幻滅って?」
律が驚いた顔をする。
ゆつぎ「女の子なのに料理できないのって」
過去に言われた発言を思い出す。
律「別に?むしろ怪我とか火傷したりしないかの方が心配かな。慣れてないと危ないから」
予想外の返答に面食らう。
(そんなふうに言われたの初めてかも)
よかったらもう一つどうぞ、と弁当の蓋に卵焼きを乗せる。
それをお礼を言って食べるゆつぎを優しい目で見つめる。
◯お昼ごはんを食べ終わるとそれぞれ持ち寄った本を開く。ゆつぎは数学の問題集。律は料理の本。
律「そういえば昨日の朝も数学の本開いてなかった?」
(あの一瞬挨拶しただけなのにそこまで見えてたんだ)
ゆつぎ「うん、昔から数学の問題解くの好きで」
律「先週の小テスト、難しくなかった?」
ゆつぎ「もしかして問五?あれは引っ掛けだったよね」
そう答えると驚いたように目を見開く律。
律「…今度から数学はゆつぎに教えてもらおうかな」
ゆつぎ「学年主席に教えることなんてないんじゃないと思うよ?」
律「そんなことない、俺七教科の中で数学が一番で点数悪いし」
ゆつぎ「そうなの?」
律「そう。幻滅した?」
わざと先ほどのゆつぎの発言を繰り返す。
(あっ、、)
律の意図に気づく。
「ううん、そんなことは思わないよ誰だって苦手なことがあるし…それに、現状に満足しないで克服しようと努力できるのは素敵だと思う」
(だから幻滅なんてするわけない)
(律くんもさっきそう言おうとしてくれていたのかも)
今度は律が面食らう番に。
ゆつぎのまっすぐな言葉にはぁあと盛大にため息をついてぼやく。ほんのり顔が赤い。
律「素でそんなこと言えちゃうとか反則でしょ…」
ゆつぎ「え?」
(よく聞こえなかったな)
律「なんか他に苦手なことないの?弱点とか」
ゆつぎ「うーん、他の人と話すことかな…」
律「今はすごい普通に話してるように見えるけど」
(確かに…何でだろう、律くんとはすごく自然に話せる)
律「他には何かある?」
(弱点、弱点…)
ゆつぎ「……ピーマン」
律「え?」
ゆつぎ「ピーマン、苦手なの…」
(あの独特の匂いと苦みがどうしても苦手で食べられないんだ)
律「ぷ、くくくく…!」
ゆつぎ「そんなに笑わないで…」
律「ごめんごめん、何か小さい子みたいで可愛くて」
ゆつぎ「もう、嘘ばっかり」
(やっぱり言わなければよかった…!)
むくれていると、頰に律の手が触れる。
律「可愛いよ」
(えっ、、)
律「すっごく可愛い」
さっきまでの雰囲気とはガラッと変わって真剣な目で言われて、息を忘れそうになる。
(可愛い。今までは言われても嫌だったのに律くんに言われるのは嫌じゃない。むしろすごくドキドキする)
直後に昼休み終了の鐘が鳴る。
律「教室、戻ろうか」
ゆつぎ「うん…」
鐘が鳴って頰に触れていた手が離れる。ホッとしつつ、心臓はバクバクしたまま。
律「じゃあさ、俺の恋人にならない?」
突然の提案にフリーズする。
律「あれ、聞こえてた?」
(聞こえてたけど…!)
ゆつぎ「こ、恋人って、無理だよそんな…」
おろおろとパニックになりかけるゆつぎに、律は一歩下がって両手を上げるポーズをする。
※ゆつぎを落ち着かせるためと「何もしません」の意。
律「姫宮さんって、さっきみたいに告白されたりそういう目で見られるのって苦手なんじゃない?」
ゆつぎ「どうして…」
律「見てたら分かるよ」
くすっと笑う。
律「だからいっそ誰かと付き合っちゃえばそういう対象からも外れるんじゃないかと思ってさ。自分で言うのもあれだけど、俺が彼氏だと分かっても玉砕覚悟で来るやつなんていないと思うし」
もちろん手は出さないよ?と、上げた両手をヒラヒラさせて見せる。
(それってつまり…)
律「つまり『偽装の恋人』ってこと」
ゆつぎ「でも、それって夏目くんに迷惑じゃ、」
律「迷惑だったらこんな提案しない。俺も今フリーだから全く問題ないよ」
(本当にいいのかな?)
悩みこんでしまい俯く。
律はふと、カウンターの上に置かれている数学の本を見つける。
律「それって姫宮さんの本?」
ゆつぎ「うん、そうだけど」
律「じゃあ本と同じように考えるのはどう?貸し借りの関係って考えたら気楽じゃない?」
(どういうこと?)
ナイスアイデアとばかりににっこり微笑むけど、意味が分からなくて首を傾げる。
律「返却期限は無期限。もちろん姫宮さんが返却したくなったらいつでも返却可能だから。どう?」
ゆつぎ「ど、どうって言われても…」
再びカウンター越しに身を乗り出してきた律と距離が近づく。
律「それに何でも言ってって最初に言ったのは姫宮さんの方だよね?」
(何で私の方がこんなに押し切られそうになってるの…!?)
律「俺のことを貸すから、姫宮さんのことも俺に貸してよ」
近づいた顔はどこか大人っぽくドギマギする。
とりあえず了解しないと引いてくれない雰囲気にゆつぎはしぶしぶ頷く。
律「じゃあ交渉成立ってことで」
にこっと笑い、ふっと張り詰めた空気がほどける。
律がポケットからキャラメルを取り出して一粒口に放り込むのを見て「あっ、」と声を上げる。
ゆつぎ「図書室は飲食禁止だよ」
律「あれ、そうだったっけ?」
ゆつぎ「夏目くん、意外と適当なところあるんだね」
(生徒会をさぼったりお菓子を持ち込んでたり…)
律「あはは、もしかして俺ってそんなに品行方正に見られてた?」
律の悪戯っぽい視線に、はっとする。
ゆつぎ「ごめん、そういうわけじゃないんだけど…」
(一方的な印象で決めつけられるのは嫌だって思ってるのに)
自分は律を『生徒会長で人気者だから真面目なはず』と決めつけて勝手にそういう目で見ていたことに気づく。
律「姫宮さん、口開けて」
ゆつぎ「…えっ?」
顔を上げた瞬間、キャラメルを口に放り込まれる。
その瞬間、律の指先が唇に触れる。
律「はい、これで共犯」
頬がかあっと赤くなる。
律「すごい顔真っ赤」
何と返したらいいか分からず口をパクパクさせるゆつぎの耳元に顔を寄せる。
律「これからよろしく『彼女さん』?」
キャラメルみたいに甘い笑顔を見せる。
〇翌日・教室(昼休み)
昼休み開始の鐘が鳴り、ゆつぎのクラスのドアがガラッと開く。
律「あ、ゆつぎいた。今から昼一緒に食べに行かない?」
突然の律からのランチのお誘い。教室内がざわつく。
クラスメイト女子1「えっどういうこと?まさか会長と姫宮さんって付き合ってるとか?」
律「うん、そうだよ」
キラキラ王子様スマイルに顔を赤くする女子。
何ともいえないざわめきが広がる。ちらっとゆつぎを見てくる視線が痛く顔がひきつる。
律「じゃあそういうことだから、行こうかゆつぎ」
〇廊下
律「ゆつぎ、また顔真っ赤だけど大丈夫?」
ゆつぎ「夏目くんのせいだよ、それに名前…」
律「あぁ、やっぱり名前で呼んだ方がそれっぽいかと思って。だからゆつぎも今日から俺のことは律って呼んで」
さらっと簡単に言う律にゆつぎはさらに混乱。
ゆつぎ「それにしても、いきなり教室であんな…っ」
律「だってどこかで宣言しておかないと、噂が広まらないとゆつぎへの告白も減らないから『偽装恋人』になった意味がないだろ?それとも校内放送で堂々と告白した方がよかった?」
ニヤリと流し目で見てくる律。
ゆつぎ「い、いい!それはいらない…!」
ぶんぶんと首を振る。
(今の教室の状況を想像するだけで嫌な汗が出そう…)
※実際、ゆつぎのクラスの教室は二人の話題で持ち切り。
必死な姿に吹き出す律。
律「冗談だよ。さてとどこ行くかなぁ、さすがに食べてる時は周りに人がいなくて静かなところがいいけど」
ゆつぎ「図書室は駄目だよ?」
キャラメルの一件を思い出し釘を刺す。
律「分かってるって。あ、じゃああそこにしよっか」
〇旧生徒会室
律が鍵でドアを開けて電気をつける。
律「どうぞ」
ゆつぎ「ここって…?」
律「昔の生徒会室。今は使われてなくて過去の資料室置き場みたいになってるんだ。今は誰も来ないし落ち着けるかと思って」
隣り同士に座ると袋の中身を覗き込む。
律「え、お昼ってそれだけ?」
ゆつぎ「うん」
朝、購買で買ったパン一つ。律の弁当はとても彩り豊かな手作り弁当。
ゆつぎ「わぁ綺麗なお弁当だね。お母さんの手作り?」
律「いや、俺が自分で作ったやつ」
ゆつぎ「え!?夏目くんが?」
律「なーまーえ」
ゆつぎ「あっ、えっと、り、律くんが?」
律「うち両親が共働きで小学生から自分で料理してたし。今も家族の分の弁当も作ってる」
ゆつぎ「そうなんだ」
(かっこよくて人気者でスポーツもできて頭もよくて、おまけに料理上手って天は何物を与えるんだろう…)
律「よかったら一つ食べる?今日の卵焼きはかなり上手く焼けたんだ」
断ろうとするより先に、弁当の蓋の上に卵焼きを乗せてどうぞとすすめられる。
「じゃあ、いただきます」
ぱくりとひとくち口に入れる。
「……おいしい…!」
驚きからみるみる笑顔に変わっていく。
(ほんのり甘くて、でもダシのあじもしっかりしている。そして何よりこのふんわりとした食感…!)
ゆつぎ「すごくおいしいよ!お料理上手なんだね!」
律「ありがとう…ぷっくく、あはは…!」
大きく笑いだす律にびっくりする。
律「いや、こんなにテンション高いところ初めて見たからつい」
ゆつぎ「ごめん、私料理全然できないからすごいなと思って」
味付けに失敗したり焦がしたり、レシピ通りにやってるつもりなのになぜかうまく出来ない。
律「そうなんだ、意外だな」
ゆつぎ「幻滅した?」
律「幻滅って?」
律が驚いた顔をする。
ゆつぎ「女の子なのに料理できないのって」
過去に言われた発言を思い出す。
律「別に?むしろ怪我とか火傷したりしないかの方が心配かな。慣れてないと危ないから」
予想外の返答に面食らう。
(そんなふうに言われたの初めてかも)
よかったらもう一つどうぞ、と弁当の蓋に卵焼きを乗せる。
それをお礼を言って食べるゆつぎを優しい目で見つめる。
◯お昼ごはんを食べ終わるとそれぞれ持ち寄った本を開く。ゆつぎは数学の問題集。律は料理の本。
律「そういえば昨日の朝も数学の本開いてなかった?」
(あの一瞬挨拶しただけなのにそこまで見えてたんだ)
ゆつぎ「うん、昔から数学の問題解くの好きで」
律「先週の小テスト、難しくなかった?」
ゆつぎ「もしかして問五?あれは引っ掛けだったよね」
そう答えると驚いたように目を見開く律。
律「…今度から数学はゆつぎに教えてもらおうかな」
ゆつぎ「学年主席に教えることなんてないんじゃないと思うよ?」
律「そんなことない、俺七教科の中で数学が一番で点数悪いし」
ゆつぎ「そうなの?」
律「そう。幻滅した?」
わざと先ほどのゆつぎの発言を繰り返す。
(あっ、、)
律の意図に気づく。
「ううん、そんなことは思わないよ誰だって苦手なことがあるし…それに、現状に満足しないで克服しようと努力できるのは素敵だと思う」
(だから幻滅なんてするわけない)
(律くんもさっきそう言おうとしてくれていたのかも)
今度は律が面食らう番に。
ゆつぎのまっすぐな言葉にはぁあと盛大にため息をついてぼやく。ほんのり顔が赤い。
律「素でそんなこと言えちゃうとか反則でしょ…」
ゆつぎ「え?」
(よく聞こえなかったな)
律「なんか他に苦手なことないの?弱点とか」
ゆつぎ「うーん、他の人と話すことかな…」
律「今はすごい普通に話してるように見えるけど」
(確かに…何でだろう、律くんとはすごく自然に話せる)
律「他には何かある?」
(弱点、弱点…)
ゆつぎ「……ピーマン」
律「え?」
ゆつぎ「ピーマン、苦手なの…」
(あの独特の匂いと苦みがどうしても苦手で食べられないんだ)
律「ぷ、くくくく…!」
ゆつぎ「そんなに笑わないで…」
律「ごめんごめん、何か小さい子みたいで可愛くて」
ゆつぎ「もう、嘘ばっかり」
(やっぱり言わなければよかった…!)
むくれていると、頰に律の手が触れる。
律「可愛いよ」
(えっ、、)
律「すっごく可愛い」
さっきまでの雰囲気とはガラッと変わって真剣な目で言われて、息を忘れそうになる。
(可愛い。今までは言われても嫌だったのに律くんに言われるのは嫌じゃない。むしろすごくドキドキする)
直後に昼休み終了の鐘が鳴る。
律「教室、戻ろうか」
ゆつぎ「うん…」
鐘が鳴って頰に触れていた手が離れる。ホッとしつつ、心臓はバクバクしたまま。