生徒会長と高嶺の姫

第三話

〇教室(放課後)

律「ゆつぎ、一緒に帰ろう」
HRの後、ゆつぎの教室に律がやって来る。
ゆつぎ「今日生徒会は?」
律「今日は休み」
ゆつぎ「でも私今週は図書委員の当番があるから」
律「じゃあ終わるまで待ってる」
はい、とゆつぎが教科書を鞄に入れるの手伝う律。
クラスメイト女子1「ねえ、本当に夏目くんと姫宮さんって付き合ってるの?」
ストレートな質問にドキリとする。
律「うん、そうだけど」
にこにことポーカーフェイスの律。
クラスメイト女子1「じゃあ付き合うきっかけってなんだったの?」
(やっぱり疑われてる…)と気が気じゃないゆつぎ。
律「実はゆつぎに勉強を教えてもらってたんだ。そうして二人で勉強しているうちにって感じかな」
(ええっ!?)
驚いて律の顔を見ると、唇に指をあててシーッというポーズ。
クラスメイト女子「学年トップの夏目くんが勉強を教えてもらうことなんてあるの?」
怪訝そうな顔をする女子たち。
律「もちろん」
クラスメイト女子「何の教科?」
律「数学。ちょっと苦手な単元があるんだ。ゆつぎって教え方がすごく丁寧で上手いんだよ」
すらすらと言葉が出てくる。
(お昼休みでの『数学の問題を解くのが好き』っていうあの会話だけでここまで話を広げられるのってすごい)
クラスメイト女子「へえ、そうなんだ~」
初めは疑ってた子たちも納得している。
(これが生徒会長の話術…)

〇図書室(放課後)

ゆつぎ「で、本当に勉強するの?」
律「皆の前でああ言った手前、嘘を実(まこと)にしないとね」
閲覧コーナーでノートを広げて隣り同士で勉強する二人。
ゆつぎ「ここはこっちの式を先に解いて…こうすると区間0≦x≦−√2がx≧x3-xになるから…」
律「後はこれに代入すればいいってことか」
ゆつぎ「そうそう。そうするとここの面積が出るから、後は――」
真剣に教えているゆつぎの横顔を頬杖をつきながら見つめる。
※ゆつぎの長い睫毛、唇、頬などを順番にアップになる。
ゆつぎ「律くん、聞いてる?」
はっと我に返る律。
ゆつぎ「今ぼーっとしてなかった?」
律「してないよちゃんと聞いてた。やっぱり思った通り教え方上手いね。字も綺麗で見やすい」
腑に落ちない顔をするゆつぎににっこり微笑む。
律のスマホが鳴る。生徒会副会長からの呼び出しメッセージ。
律「はあ…緊急招集だって。行かないと」
スマホのメッセージを見てげんなりした表情。
ゆつぎ「そっか大変だね」
時計を見ると十六時半。
律「今から会議だとたぶん遅くなるだろうから、ゆつぎは先に帰ってて。本当は送っていきたかったけど」
ゆつぎ「ううん、私のことは気にしないで」
立ち上がって支度を始める律を、今度はゆつぎが手伝う。
律「そうだ、ゆつぎの連絡先教えてよ。まだ交換してなかったよな」
ゆつぎ「え?うん…」
スマホを取り出して携帯番号とメッセージアプリのIDを交換する。
この高校に来てから誰かと連絡先を交換するのは初めてで、操作に慣れずに戸惑う。
※ここからデフォルメ絵↓
ゆつぎ「ここ開くの?あれ、消えちゃった!」
律「こっち押してみて、そうそう」
ゆつぎ「こう?」
律「うん、俺がQRコード読み込むからそのままにしてて」
ピコンッと友達登録され、画面をまじまじ見つめる。
律「どうしたの?」
ゆつぎ「あ、ううん、この高校に来て連絡先交換したの初めてだから感動しちゃって」
(入学してから今まで、こんなふうに親しくなった人はいなかったから)
増えた連絡先に嬉しそうにするゆつぎ。
その様子をじっと見つめる律に気まずくなる。
(もしかして引いてる?どんだけボッチなのかって思われてるかも…)
律「そっか、俺が初めてなんだ。何か嬉しいかも」
(嘘を言っているようには見えない)
綺麗な笑顔に胸がぎゅっとなる。
(何でだろう、律くんの言葉で心が軽くなったのに、胸が苦しい…)
自分の気持ちが分からず戸惑う。

〇翌日・朝(教室)

いつものように席に着くと、昨日の放課後話しかけてきたクラスメイト女子たちが近づいてくる。
クラスメイト女子「ねえ姫宮さん」
ゆつぎ「(えっ、何だろう、律くんとのことを何か言われる!?)うん、何か…?」
クラスメイト女子「……ここ、教えてほしいんだけど」
手には数学の教科書。
どこか気恥ずかしそうに、少し目線を逸らして頼んでくる。
ゆつぎ「え、わ、私…?」
クラスメイト女子「だって、あの夏目くんが教え方上手いって言ってたから」
話しかけられている最中もバクバクと動悸する。
(でも、せっかく律くんがくれたきっかけなんだから…!)
自分を奮い立たせるようにして、小さく笑顔を作る。
ゆつぎ「うん、私でよければ。えっとこの問題でいい?」
しばらくしてHR前に湯次の教室を覗きに来た律は、クラスメイトの女子たちに数学を教えている姿を目撃する。
ゆつぎ「あ、これはこの公式を使うんだ」
クラスメイト女子「当てはめたけど解けなかったの」
ゆつぎ「この公式は式変形する必要があって…、こうしてからこの値を代入すると…」
クラスメイト女子「えっ、あっという間に解けた」
ゆつぎ「…あ、ありがとう」
クラスメイト女子「すごい天才じゃん、ねえ私にも教えて」
ゆつぎたちの様子を教室の入り口から遠巻きに見て微笑んでから、律は自分のクラスに戻る。

〇図書室(昼休み)

ゆつぎ「そうしたら他の子も声を掛けてくれて少しみんなと話せたんだ」
律「そっか、よかったな」
ゆつぎ「律くんのおかげだよ」
カウンター越しに向かい合わせに座り、新しく入った本の透明カバー掛けとラベル貼りをしながらの会話。
律「図書委員ってこんな仕事もするの?」
ゆつぎ「本当は司書の先生の仕事だけど職員会議とかでバタバタしてたから代わりに引き受けたの」
律「ゆつぎって優しいっていうかお人よしだよな」
ラベル貼りを手伝いながら軽く笑う。
ゆつぎ「それなら律くんもでしょう?」
律「俺?」
手を止めるとまっすぐにこちらを見るゆつぎと目が合う。
ゆつぎ「だってそうじゃなかったら『偽装恋人』なんて提案しないと思うし」
律は驚いた顔をしてから今まで見せなかった挑発的な笑顔になる。
律「そうとは限らないかもよ?」
ゆつぎ「え?」
カウンターから身を乗り出す。
ゆつぎの髪に触れて耳に掛けてやる。
律「ゆつぎは俺が100%の善意でやってると思ってる?」
あらわになった耳を撫でるように触っている。
ゆつぎ「え…?」
突然のことにびっくりして固まる。
律「作業はこれで終わり?」
ふっといつもの柔和な笑顔に戻る。
ゆつぎ「う、うん、手伝ってくれてありがとう」
律「どういたしまして」
(今のは、気のせい…?)
何事もなかったかのように続く会話にぽかんとする。
律「そういえば今日、図書委員の仕事以外に予定ある?」
ゆつぎ「ううん、特にないけど」
律「よかった、連れて行きたいところがあるんだ」
(連れて行きたいところ…?)

〇図書室(放課後)

ポケットに入れていたスマホがブーンっと鳴る。
『ちょっとだけ生徒会室に寄るから、十五分後に校門前でいい?』
スタンプを押そうと思ってどれにするか悩んでしまい、結局スタンプではなく『了解です』と文字を打って送信。
すぐに『既読』と笑顔の猫のスタンプが返ってくる。
ゆつぎ「こういう可愛い系が好きなのかな…?」
(ちょっと意外かも)

〇生徒会室

スマホが鳴り、ゆつぎからの返信を見て微笑む。
スタンプを押して送信完了。
遥斗「何ニヤニヤしてんの」
律「別に」
遥斗「別にじゃないだろ。あーあ俺が一生懸命折衝してんのに生徒会長様は『高嶺の姫』とイチャイチャメールですか」
ふてくされる遥斗。
律は溜息をついてスマホをポケットにしまう。
律「何回も言ってるだろ、いくら頼まれても引き受けられない」
遥斗「幼なじみの頼みでも?」
律「そうだよ。じゃあ俺はもう行くから」
鞄を持って生徒会室を出ていく。
パタンと閉まったドアを見つめ、ニヤリと笑う。
遥斗「律に彼女ねぇ……これは面白くなりそうかも」


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