さよならトライアングル
 昼下がりのファミレス。他の席から聞こえる卒業生の華やかな声。ぐずぐずと鼻を鳴らし、俯く幼馴染。向かいに座る俺。

 もうかれこれ2時間は粘っている。沈黙を埋めるようにちょうど2人の間に並んだメロンソーダと烏龍茶は、透明なグラスが汗をかき、溶けた氷が時折崩れてカランと軽い音を立てた。

「私にはりっくんよりいいひとがいるんだって」
「うん」
「それから付き合ってる人がいるって」
「うん」
「同じクラスの吉村さん。吹奏楽部の」
「うん」
「うんうんって、夜は知ってたくせに! りっくんから聞いてたんでしょ」
「うん。ごめん」
「謝んなばか! そういう余裕そうなとこムカつく!」
「ごめん」

 日芽はもう一度ムカつく、と泣きながら吠え、テーブルに突っ伏した。
 枝毛のひとつもない手入れされたオリーブブラウンの髪が、テーブルにあたってたわむように広がる。

 一番奥、窓際の席を選んだのは正解だった。
 誰も俺たちのことを気にしない。同じ花を胸に挿した同級生たちに、声を掛けられることもない。

 それに、見目がいい日芽を無遠慮な視線に晒されずに済んだのは幸いだった。
 日芽はどうしようもないほどのその泣き顔を、誰にも見せたくはないだろうから。
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