さよならトライアングル
「ひぃの方が可愛いのに。ひぃの方が絶対りっくんのこと好きだったのに」

 日芽の細く小さい肩が嗚咽の度に揺れる。
 いつの間にか一人称が“私”から“ひぃ”に戻っているのに気がついて、これは彼女にとっていよいよ深刻なことなのだと知る。

 日芽のその一人称は中学二年の時、かわいこぶってると同級生の女子に虐められて変えた呼び方だった。

 実際、日芽は学校で一番可愛かったから、俺と律は別に友達といる時くらい好きなように呼べばいいんじゃないかと言ったけど、女の間じゃそうはいかないと日芽は俺たちの前で泣いた。可愛い子は性格もよくなければ弾かれてしまうのだと。気が強く、天真爛漫で誤解されやすい日芽には酷な話だった。

 結局呼び方を変えたところで日芽はその容姿を妬まれ続け、俺たち幼馴染の他に友人と呼べる友人もなく高校生になった。

 日芽はますます孤独になった。俺たちが無条件で傍に居られる間は、いつでも、ひとりぼっちの日芽の隣を二人で歩いてやれた。
 でも、高校生になるとどうしても性差が邪魔をする。ずっとは傍に居られない。俺たちはどうしたって男と女で、全部同じにはできなかった。

 だから日芽はひとりで耐えた。
 若山日芽はわがまま姫。誰が言い出したのかは知らないけれど、そんな不名誉な陰口の中を、ひとりで。

 それなのに、あれほど大事に想った日芽を、律が選ぶことはなかった。
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