甘い夜更け。朝を憎んだ。
「あの、コレ」

女子はおずおずと俺にプリントみたいな物を差し出した。

手描きのもくもくとした雲のような縁取りの中に「夏休み!BBQのお知らせ」と書かれている。

キラキラやハートマーク、デフォルメされた動物、肉、フルーツのイラストなんかが紙一面に散りばめられている。

丸っこくて少しクセのある字。
クラスの中心的グループの女子が、確かこういう字を書いていたな、と思い出す。

紙の下のほうには更に枠組みがされていて、
参加者はそこに名前を書くみたいだった。

「昼休みから回されてるんだよ。もしかしたら他のクラスの子達も来るかもなんだって」

「へぇ。そんな大規模なバーベキュー、どこでやるの」

「来栖さんのおうち。ほら、あの子のとこ豪邸だし。庭もおっきいでしょ。バーベキューも毎年家族でやってるから設備も完璧なんだって」

やっぱり。
これは来栖の字だ。

来栖は父親が会社経営をしていて、
それも一部上場企業だとかなんとか。

閑静な住宅街の一等地に構える豪邸は立派で、
女子達の憧れの的だった。

俺の家は祖父が支援こそしてくれているけれど、
母は「目立つ暮らし」を嫌う人だから、至って普通の家に住んでいる。

俺自身、「大きな家」に憧れを抱くタイプではなかった。
掃除とかなんか色々、面倒そうだし。

来栖(の父親)の豪邸にだってどれくらいの使用人が居るのか、それだけが興味をそそる程度だった。
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