甘い夜更け。朝を憎んだ。
「楽しい?俺の部屋なんかなんにも無いけど」

「先輩が居ます」

「ふーん」

夏よりは少し伸びた佐藤の髪を人差し指でくるくると巻いた。
相変わらずわざと黒く染められた髪は、電飾の下でところどころブラウンに見えた。

ソファに座ってクッションを抱きかかえていた佐藤が上目遣いで俺を見る。

「いつまでそう呼ぶの?」

「え?」

「朝之先輩、って」

「だって…ずっとそうだったから…」

「夜乃さんは″蜜先輩″って呼んでたよ」

挑発。

クッションを抱く手にギュッと力を込めて佐藤は俯いた。

髪をすくって耳にかける。
それでも俯いたままの頬に手のひらで触れた。

「アマイは特別なんじゃないの?」

チラッと上目遣いに盗み見るような目。

眉間にそっとキスをする。

「そうだったらいいなって私が勝手に思ってるだけで…」

「勝手に思わせてるのも俺じゃん」

「許してくれるんですか?」

「許すも何も、違うの?」

「せんぱ…ぃ…」

「蜜」

「蜜先輩」

「蜜」

「み…つ………」

「アマイは悪い子だよね」

「なんっ…で…!み…、蜜のことだけをいつも考えてるのに」

「俺がアマイって呼んでもアマイは全然呼んでくんなかったじゃん」

「できるわけないです…呼び捨てになんて」

「あんなに堂々と俺のもんだって顔してたくせに?」

「いじわる言わないで…」

「可愛い」

佐藤の背中に這わせた俺の手のひらに、佐藤はいつまでも恥ずかしそうにする。

いつまでも慣れない佐藤の反応に、
ずっとそのままでいればいい、と思う。

この女は俺のこと以外、何も知らないままでいい。

俺にだけ堕ちて、
俺のもので、一生漂っていればいい。
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