甘い夜更け。朝を憎んだ。
「来栖さん、密くんには絶対に来て欲しいってさっき言ってたよ」

「なんで?そんなに喋ったこともないよ」

「なんでってそれは…」

「ステータス爆上がりするからだよなぁー」

女子の隣の席の男子が、後頭部で手のひらをクロスさせて、椅子の後ろ脚だけを床につけながらゆらゆらと揺れている。

俺を茶化すような目でシシシ、と漫画みたいな笑い方をしたそいつの妙な無邪気さに、
自分の口角まで上がってしまう。

「ステータスって、なんのだよ」

「なーに野暮なこと言っちゃってんの。お前を誘える女なんだぞって誇示したいからに決まってんじゃん」

「…ふーん。くだんないね。だったら行くのやめようかな」

「誇示したいから」と言った男子の声とほぼ同時に五時間目開始を報せるチャイムが鳴って、

「行くのやめようかな」と言った俺の声と同時に鳴り止むもんだから、
サッと水を打ったように静まり返った教室に俺の声だけが響いてしまった。

「行くのやめる」、その言葉が何を指すのか、
昼休み中に「お知らせ」を回されていたクラスメイト達はしっかりと理解していて、

たった一人、俺の不参加宣言が教室中を凍り付かせた。

「ちょっ…!密くんっ!」

来栖が俺の席まで駆け寄ろうとしたけれど、
五時間目の国語教師が入ってきてしまって、来栖による俺への突撃は阻止された。

学級委員長の号令で生徒達が起立して、
「よろしくお願いしまーす」って真伸びした挨拶に包まれる。

号令が終わってからも、
「朝之くんが来ないならやめよっかな」
「つまんない」なんて声がヒソヒソと聞こえてくる。

こいつら全員、俺が死ねと言えば素直に死ぬのか。

本気でそう心配になるほどの忠誠心。

参加したってきみ達全員の相手はできないよ。
そんな馬鹿げたことすら脳裏を過ぎってしまうくらいには。
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