甘い夜更け。朝を憎んだ。
「それだけなら放っておけばよかったんですけどね。もう一つ、事件が起きちゃったでしょ?事件、というか事故ですけど。ほら、夏休み中の列車事故。夜乃さんと幼馴染であったことが世間を騒がせてしまいました」

「その彼、佐藤さんの幼馴染でもあったのよね?」

「はい…。彼が亡くなる前日に私達に幼馴染が居るという話を先輩に打ち明けました。彼も夜乃さんの事件にはひどく心を痛めていたから…。そんなことは先輩には関係のないことですけど。私は先輩を慕っているから…周りがどんどん傷ついていく姿を一人で見守り続けるほど強くなれなくて先輩に縋ってしまったんです。だから先輩はきっと私の為に…」

「何があったの?」

「会いに行ったんですよ。彼に。通っている高校の話は聞いていました。連絡先は知らないし夏休みだったから一か八か、だったんですけど高校まで行ってみたら奇跡的に校門前で会うことができました」

嘘だ。
そんな奇跡が起こるはずがない。
ドラマじゃあるまいし。

本当は、自分の「武器」を使っただけだ。
彼の写真は佐藤から見せられていた。名前も知っていた。

高校まで行って、近くにいた女子生徒の何人かに声をかけて彼を知らないか聞いた。
ようやくクラスメイトだという女子に出会えて、連絡して呼び出してもらったんだ。

ちょっと来栖を彷彿とさせる陽キャな女子は俺からのご褒美を欲しがった。

「また偶然出会えたらそれはもう奇跡だから。その時に、ね?」

女子は馬鹿げた奇跡を信じた。
その奇跡の為に生きよー!なんて軽率に笑って、友達とハシャぎながらあっさりと消えてくれた。

そうやって割りとラクに彼との初対面は叶えられた。
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