甘い夜更け。朝を憎んだ。
「…分かったよ。予定が分かったら連絡する」

俺の言葉に来栖の表情が今日イチ、パッと明るくなった。

なんだよ、また朝之の一人勝ちかよ
朝之にキョーミ無い物好きも何人かは居るって
どうしよう、蜜くんが来るなら真剣に服考えなきゃ
髪の毛どーしよー!

俺と来栖を中心に置いて、教室中がザワザワと騒がしくなった。

来栖は自分の手柄に誇らしげだった。
俺の彼女、みたいな顔をしている。

トークアプリ内にクラス全体のグループがある。
ほとんどが連絡網代わりか、行事のたびに撮影した写真が回ってくる程度にしか普段は使われていない。

そっちで連絡をしてもいいんだけど、
わざわざ全体に向けて俺のスケジュールを発信するのも面倒だから、
来栖個人に送ることになるだろう。

その時もきっとこんな風に一人で表情筋を緩ませているんだろうなと容易に想像できた。

「あー、二年のさ、あの子。ほら、生徒会の会計の子!あの子も来れたらいいのにね」

「なんで」

「徴収した参加費、パパッとまとめてくれそーじゃん」

「はぁ?やだよ。なんで夏休みまで生徒会やんないといけないの」

「えー。お仕事してる蜜くん、かっこいいよ?」

猫撫で声で言われたってバカはバカだ。

学校とは関係のない、しかも別学年の集まりに呼ぶわけないし、
そんなことさせるわけない。

生徒会の仕事をしてる俺のことだって何も知らないくせに。

「なーんだよ、来栖一族のおこぼれじゃないのかよー」

男子がふざける。

「そんなわけないでしょ。蜜くんだけは来てくれるだけでいいけどぉー」

来栖が笑いながら男子の腕を肘で小突く。

そんな光景にさえ心臓がスン、と静まり返る。

同世代の、こんな無邪気な戯れ合いも、きっと俺には叶わない。

似合わないから。
誰も求めていないから。

他人が作り上げた俺への理想像を守り通すことだけが俺の価値だと思っていた。

夢がある。
友情がある。
苦しくて、涙が滲むほど努力してでも手に入れたい物がある。
本物の愛だって知っているのかもしれない。

俺には無いその価値を、こいつらの上に立った気になって見下ろすことでしか
俺は命の必要性を感じられなくなっていた。

本当に、心底無価値。

絶対に死んでしまったほうが世の中の為なのに。
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