甘い夜更け。朝を憎んだ。
佐藤は大女優だ。

俺が指示した通りのシナリオを忠実に披露し、セリフだけじゃなく表情の隅々まで完璧だった。

夜乃とばりのように…もはや「夜乃とばりになろう」と心に決めて生きてきた数年間の賜物と言える。
自分じゃない何かに成り切ること。
そうする佐藤には一切の違和感がなかった。

記者としての道を断つだけでも良かった。
それが「死」という最高の終焉を迎えたことに内心、小躍りすらした。

記者からの「復讐」なんていう煩わしいことも自動更新で免れたのだから。

「アマイ、ありがとね」

「先輩の為ならなんでもします。酷いですよ、あのおじさん。先輩がとばりのためにどれだけ心を痛めてるか知らないくせに。死んで当然です」

「いい子だね。とびきりのご褒美をあげなきゃね」

「なんでも?」

「なんでも。今日はなんでも聞いてあげる」

「んー、じゃあ…彼女にしてって言ったらどーしますか」

腕の中でおどけるように笑う佐藤。
でも不安の色が隠せていない。
俺の反応が怖くて仕方ないって表情だ。

「それはダメ」

「えー…」

「そんなありきたりな肩書きなんかなくてもアマイは俺の特別なんでしょ?」

「ずるい…」

「アマイもずるいよ」

「なんで…」

「こんなに俺を夢中にさせて」

「ん…」

「ねぇ」

「はい」

「アマイを縛りつける糸、もっと強くしてもいい?」

「糸?」

「俺から心が離れないように」

「うん。して?」

俺の、俺だけのマリオネット。
その四肢が血だらけになっても惨めに踊り続けろ。
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