甘い夜更け。朝を憎んだ。
「″どこまで行くの″っておかしくない?」

「なんで?」

「なんでって呼び出したのはそっちだろ。なんで俺に委ねんだよ」

「だって蜜くんが全然止まってくんないから」

はぁー…っと長めについた溜め息に来栖は俯いた。

「そもそもさ、二度とその声聴かせんなって言わなかったっけ?」

「ごめん」

来栖の爪。
九月頃は季節外れの桜色だったけれど、今はもみじを彷彿とさせるようなえんじ色だった。

ワンテンポズレた季節感。
嫌な気がしないのは、何故なのだろう。

「あのさ」

「ん…?」

「紅葉もとっくに終わってると思うんだけど」

「え」

「もみじ。もう散っちゃったよね。それも趣味なの?季節外れの爪」

俺に比べてずいぶんと小さい手のひらに触れた。
来栖は驚いた目で俺を見上げた。

あの時のおんなじように小指の爪に自分の親指を差し込んでクッと力を入れた。
ビクッと肩を振るわせた来栖が咄嗟に俺の手を払いのけた。

「それいやっ…」

「いや?」

「痛いの、いや」

「ふーん。ほんとかなぁ」
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