甘い夜更け。朝を憎んだ。
玄関の内側に入ってきた佐藤は、置いてある靴を見て、
「あ、」と声を漏らした。

「お母様、いらっしゃるんですか?」

佐藤の視線の先には一足のショートブーツ。
ベロア生地のバイカラーデザインになっている。

「いや、居ないけど。忘年会なんだって。どうせ遅くまで帰ってこないよ。それか朝帰り」

「そう…ですか?」

お邪魔します、と小さい声で言って佐藤はまだ疑っているようにそっとリビングを覗いた。
母さんが居るとしたら初対面になるからよほど緊張しているのだろう。

でもその緊張は杞憂だ。

母さんは本当に忘年会に行っているから居ない。
ブーツを片付けるのを忘れているわけでもない。

アレは母さんのじゃない。

「アマイって生徒会の時もすごい時間にきっちりしてるけどさ。まさかアマイよりも早いとは思ってなくて驚いたよ」

「え…」

リビングのソファに座る、来栖の姿を視界に入れた佐藤はその場で固まった。

嫌悪と、混乱の間で揺れているみたいだった。
呼吸すら止まってしまっているんじゃないかと心配になって覗き込んだら、
キッと鋭い目で睨まれた。

「なんで…!?」

「言ったじゃん。特別な日だって」

「どこが特別なの!?最低…二人で私のこと騙して笑ってたの!?」

「ちょっと待ってよ、佐藤さん。私も…状況は分かってないんだよ…」

「嘘つき!じゃあなんで居るのよ!」

「蜜くんに…昨日連絡もらって…。もちろん蜜くんと佐藤さんが親密な関係だってことは知ってるよ。でも…私だって蜜くんとの特別な時間が欲しかったから…」

「黙れっ!この…ドロボー女ッ…!」

来栖に掴み掛かりそうな佐藤の腰に腕を回して静止させた。
バタバタと俺の腕の中でもがこうとしているけれど、力で勝てるはずはない。

来栖の前で、佐藤にキスをした。

来栖がスッと息を吸う音が聞こえた。

佐藤はピタリと大人しくなった。

「いい子でしょ。言うこと聞いて」

「ひどい…みつ…」
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