甘い夜更け。朝を憎んだ。
部屋のドアをゆっくりと押し開ける。
ほんの少し開けただけでも冷え切った廊下に暖房の熱が流れてきて肌を撫でる。

足を踏み入れたら、かじかみそうだった足の指先が暖かさでジンとした。

季節物の、今は使わなくなった家電。
お歳暮、お中元、引き出物とかで貰った沢山の贈答品。

衣替えで行き場を無くした洋服を詰め込んだ衣装ケース。
ほとんどが母さんの物だけど。

普段はあまり使わない、一応は日用品と呼ばれる物や、
日常生活で使う収納スペースにあるには少し邪魔になるような物がこの部屋には置かれている。

つまりは物置部屋だ。

その部屋の隅に、ぽつんと、ほとんど定位置からは動かない。
お行儀よく、ただ俺の姿だけを待っている、少女。

「……………とばり?」

佐藤アマイの声はずいぶんと長い間発声していなかったみたいにかすれていて、
うまく聞き取れなかった。

「アマイ」

上品に目を細めて、
スロー再生のようにのんびりと口角を上げた夜乃とばりはやっぱり世界中の何よりも美しい。

この世で唯一の一級品だ。
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