甘い夜更け。朝を憎んだ。
「ハッ…朝之、お前は相変わらずビッグマウスだな。お前一人に一体何ができる?」

「先生、あなたこそおかしいですよ」

「ぼくが?何がおかしい?」

「最初に夜乃の件を持ち出したのはあなたですよね。この件に危険を顧みず、当事者意識を持たせようとしたのは、生徒を守るべき立場のあなたなのに。俺は生徒の代表としてそんなことはさせられない。当事者意識は持つべきです。明日は我が身だし、夜乃のご両親も友人もどんなに苦しい思いをしているか。俺達が蔑ろにはもちろんできません。その責任は俺が背負うと言っているのに。″お前一人に何ができるのか″と先生は拒絶するんですね」

「あのな、どれだけの大人がこの件に関わっているのかお前なら容易に想像つくだろう?それでもなんの手掛かりも情報も得られてないんだ。お前一人が動いたところでなんになる!?」

「でしたら生徒のことを巻き込もうとしないでください」

「は…?」

「彼らは夜乃の友人であって、探偵なんかじゃない。大勢の大人がどうしようもできないことを、俺の大切な仲間に委ねないでください。もしも二次、三次と被害が続いたら先生はどうするおつもりですか」

チッと小さく舌打ちが聞こえた。
苦虫を噛み潰したような顔。

俺だってプロができないことをやれるなんてさすがに思ってるわけないだろ。
「何か」になったつもりの自分に陶酔して生徒を担ぎ出そうとしているこの教師が気色悪かっただけだ。

「もしも夜乃が夏休み中にも見つからなければ…」

「はい?」

「これほど近くに居たのに守れなかったお前の、生徒会長としての真意が問われるな」

「そうかもしれませんね。ところで先生?」

「…なんだ」

「先生は少しフィクション作品に影響を受けすぎです」

それだけを吐き捨てると、教師はクッと眉を吊り上げて俺のほうへ向かってこようとした。

副会長の女子に目配せをする。
俺の視線に気がついた副会長が静かに「起立」と号令をかけた。

ガタガタと椅子を鳴らして生徒達が立ち上がる。
教師は俺の所には来れなかった。

来れたとしても自分の立場を理解していないほどのバカでもないだろう。
バツが悪そうな表情を浮かべたまま、俺の「解散」の声とともに荒々しく生徒会室を出ていった。
< 17 / 185 >

この作品をシェア

pagetop