甘い夜更け。朝を憎んだ。
夜乃とばりに俺以外の人間は必要ない。
親友の佐藤アマイでさえも。

彼女が夜乃の影武者になりたがっているのは誰が見ても一目瞭然だった。
確かに容姿、文字、口調。漂う気配。
夜乃は「物真似」にしてはじょうずに再現できていたと思う。

それでも夜乃とばり本来から放たれるオーラ、
細胞レベルで心が震え、支配される美しさは取ってつけた物に揺るがすことなんてできない。

佐藤のその姿はオマージュとしては、見せ物としては観客を楽しませる価値があったかもしれないけれど、
滑稽そのものだった。

佐藤の口から幼馴染の存在を知らされた時。

想定外だった。

佐藤の他に夜乃の失踪に心を痛め、その帰りを待ち望んでいる人間がいる。

そんなものは誰一人として必要ない。
真っ白の無垢な画用紙に一点の黒いケガレが付着しているようなものだった。

だから会いにいった。

幼馴染が心を痛めているのは夜乃の失踪だけが原因ではなかった。

あろうことか、なんの面白みもない、つまらない人間の分際で、
幼馴染は夜乃に恋の種類の告白をしていた。

当然、とも言えるけれどキッパリとフラれた直後に夜乃は失踪している。

それっきりになってしまったこと。
きちんと親友に戻れないまま、もう二度と夜乃に大切だと伝えられない可能性があることを幼馴染は悔やみ、嘆いた。

だから言ってあげた。

「とばり、お前に告白されて悲しかったのかもな。結局そういう目で見られててさ。ただ友達が欲しいだけなのに、対等で居たいのに。自分は一生そういう目に晒されて生きていくしかないんだって。そんな特別な肩書きや約束なんかなくても誰かと心で繋がっていたかっただけなのに。絶望したのかもな。失踪しちゃったの、ちょっとくらいはきみのせいかもよ」

そうして彼は、勝手に電車に飛び込んで死んだ。

メンタルが弱すぎた。

尚更、夜乃の周りで生きていく価値なんかない。
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