甘い夜更け。朝を憎んだ。
「彼を殺してくれてありがとうございます」

幼馴染が死んだ日、夜乃は俺の前で微笑んで、そう言った。

「なんで?大事な幼馴染なんじゃないの?」

「私ね、ここに来てから、彼やアマイの存在がほんの少し気掛かりでした。私が消えてしまって、どうしてるだろうって。自分達が守れなかったからだって責めてるんじゃないかなって。だから実際心配してくれてたことはもちろんうれしいんですけどね。そういう存在が居るからこそ、私が世界から消える決心がつかなかったのも事実なんです。中途半端にね、すごく」

「半殺し状態だね」

「ふふ。そうですね。彼は死んだ。アマイも着実に、もう今までのアマイじゃない。もう私には何もない。誰もいない。あなた以外には。あなたの中で壊れる決心がつきました」

自分を取り巻く全ての人間に求められていた夜乃とばりは、
誰よりも孤独で、誰よりも弱くて。

誰よりも甘い、世界からの死を望んでいた。

それを与えてあげられるのは同じ苦しみを知っている俺だけだった。

完全に、夜乃とばりの中から大切な物はなくなった。

正真正銘の空っぽになった夜乃とばりは恐ろしいほどに俺の心臓をグチャグチャにした。

何もかも完璧だった夜乃が一度だけ、粗相をしたことがある。

十月半ば。
佐藤が初めて俺の家を訪れた日。

カタン、と小さく鳴った物音は夜乃が立てた物音だった。

暑かった、って夜乃は目を伏せて言った。
その日は確かに十月半ばにしては少し気温が高い日だった。

それなのに俺は窓を開けておいてあげることを忘れてしまっていた。
佐藤には逆に、「換気で窓を開けているせいで、風によって何かが倒れたのだろう」と説明したけれど、あの音には正直ヒヤッとした。

いつもは決してそんなことはしないのに、
自分で窓辺に近寄り窓を開けて、よりにもよって佐藤が居る時に物音を立ててしまったことに
夜乃はひどく自責した。

責められるはずがない。
十月とはいえ、夜乃の命に危険を及ぼす可能性を与えたのは俺なんだから。

単純な佐藤は俺の言葉以上のことは勘繰らなかった。
それは佐藤の長所だと言える。
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