甘い夜更け。朝を憎んだ。
ペンケースの中から掴み取ったカッターナイフを佐藤の足元に放り投げた。

カシャン、と冷たい音を立てたカッターナイフは佐藤の足元で異様な存在感を放った。

「蜜…」

「全然いい子じゃないじゃん、お前。その程度だったんだね」

「ちがっ…」

「もういいよ。ほら、行きなよ。もっと可愛がってくれる特別な男を見つけなよ。そこそこ可愛いし、イケるんじゃない?」

「蜜…」

「あー、でも…もうとばりのオマージュはやめなね?」

「え…」

「無理だよ。誰にもとばりの代わりなんてできない。烏滸がましいよ」

「でも私は!!!とばりよりも蜜を守ってきた!蜜の為ならなんだってしてきたじゃん!いい子ちゃんのとばりにはきっとできなかったはずだよ…こんなこと…」

「だったらヤレよ」

足元に鎮座したままのカッターナイフを拾い上げて佐藤に握らせた。

ガタガタと面白いくらいに震えている両手をギュッと握り締めて、キスをした。

「っ…」

「できるよね?」

未だくちびるが触れそうな距離で囁いた。
ダラダラと佐藤の頬を伝い落ちていく涙。
声を失って、腰を抜かしてしまった来栖。

ゆっくりと、息をのむほど美しいテンポでまばたきを繰り返す夜乃。

「ね、アマイ。早くやんなきゃ。俺、こいつのこと愛しちゃうかもよ。カラダも、最高だったし。ね、」
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