甘い夜更け。朝を憎んだ。
「習字を習ってたんです。小学生から中学を卒業するまで」

「へぇ。ずっと一緒に?」

「はい。幼馴染なんです。とばりは元々字がきれいな子でした。私の字は汚かったからそれが恥ずかしくて小三の時に習字教室に通うことを決めたんですけど。当時はクラスが別々だったとばりとそこで友達になって…」

「へぇ」

「なんで普通に字がきれいなのに…って不思議でした」

「そう思うよね」

「別に特別な理由なんかなくて。ただその習字教室の先生がとばりのお母さんだったんです。ただそれだけでとばりはずっとそこに居ました」

「そうだったんだ」

「とばりってね、すっごく美人じゃないですか。小学生の頃から周りの誰よりもきれいでした。あんなにきれいな子、これから先の人生だって出会える気がしません。おまけに性格も穏やかで字もきれい。私はとばりになりたかった。だからどんな教材やお手本よりも、とばりの字を真似しました。どんどん上達していくとばりに追いつくことはできなくても、少しでもとばりと似ているところを、私は必死で探してました」

「うん。そうなんだろうね。だってすごく、似てるから」
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