甘い夜更け。朝を憎んだ。
「そう、ですか?」

「ん?」

「あぁ…いえ、ごめんなさい。その、ほんのちょっとでも私の中にとばりの気配が残っているのならうれしくて」

「佐藤さんは、夜乃さんのことがほんとに好きなんだね。伝わるよ」

「はい。とばりは私のたった一人の大切な親友です。だから…」

「わかってるよ。夜乃さんが一日でも早く見つかるように俺も尽力するから」

「でも…」

「うん」

「この失踪が、とばりが望んだことだったのなら私は余計なことをしているんでしょうか…」

「えーっと、それは夜乃さんが失踪する前からそう感じるような言動があったってこと?」

夜乃とばり。

その名の通り物静かで、洗練された佇まい。
空気の漂いすらも彼女が操っているような、そこだけが空気の重さもまるで違うような錯覚に陥る。
静寂な夜を連想させるような人。

なのに彼女は今、重い暗幕を引いたように、親友の心に漆黒の闇を植え付けた。

「そんな気配はしなかったですけど…。どこか遠くを見ているような、とばり自身がどこか自分を卑下ているような感じは普段からありました」

「卑下てる?夜乃さんが?」

「変、ですよね。とばりはみんなの憧れでした。みんながとばりみたいになりたいって思っていました。なのに本人はそれを誇らしく思うどころか…自分が自分じゃなければいいのにって感じているような気がしました」

「そうなんだ。だったらそういう感情も、もしかしたら今回の件に関係あるのかもね」
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