甘い夜更け。朝を憎んだ。
「だからっ…」

佐藤が必死で絞り出したような声で、俺に懇願した。

「とばりが私達とおんなじ場所に戻ってこなくても、元気かどうかさえ分かればいいんです…。先輩、お願いします。とばりを見つけてあげてください…」

ぽん、と佐藤の頭頂部に手のひらを乗せたら、また上目遣いで見つめられる。

こんなこと、異性に初めてされたのかもしれない。
驚いたような目と、明らかに首元とは違う頬の赤色。

俺を誘ってくるような女にこういう反応をする子はほとんど居なくて、なんだか俺のほうが気まずくなってくる。

「大丈夫。佐藤さんがまた夜乃さんに会えるように俺も頑張るからさ」

「ありがとう…ございます…」

「うん。じゃ、帰ろっか」

「はい」

生徒会室から佐藤を送り出して、会議用にセッティングされた机や椅子はそのままに、
俺は会長席に腰を下ろした。

夜乃だけが消えた学園。
生徒会。

たった一人なのに、世界的な絵画の全ての価値が崩壊してしまったかのような損失。

他人にそう思わせるほどの力が夜乃には確かにあった。

その魅力こそが彼女自身を苦しめていたようにも思う。

どうしようもない、勝手に与えられてしまった力。

意思とは反比例して求められ、そこに需要と共有、利害の一致が成立しなければ、理不尽に捨てられ忌み嫌われていく人生。

夜乃はクズにはなれなかった。
何かを諦めて、冷却していく心を受け入れられなくて、
夜乃自身が平等に訪れてしまう朝を憎んだのかもしれない。
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