甘い夜更け。朝を憎んだ。

朝と夜

昨日、生徒会顧問の教師が言った通り、学園の校門前には連日記者達が張り付いている。
大勢の生徒や夜乃を取り巻く関係者達、その全ての人間に対して教師や両親の抑止力は極めて低い。

プライバシー保護は当然ながら、夜乃自身の真実を捻じ曲げる発言を抑えようとどれだけ躍起になっても、
人間の好奇心には勝てない。

雑誌やSNSでは既に「美人女子高生失踪事件」として騒がれていたし、
誰が提供したのか、SNSには夜乃の目元にモザイクが施された写真まで出回っていた。

両親はそういったアカウントを摘発したりと動いてはいるみたいだけど、その全てに対応するのは難しいらしい。
実際に、ひどく疲弊していた。

突然の娘の失踪。
ただでさえ混乱を抱えた中での世間への対応。

平静で居られるわけがない。
身体的にもメンタル的にもボロボロになっていることは、たびたび学園に訪れているその姿から容易に想像できた。

「きみ、ちょっといいかな?」

学園の門を抜けようとした時だった。

一人の記者に腕を掴まれた。
四十代後半くらいだろうか。
初対面にも関わらず無遠慮に掴まれた腕をチラリと見て、自分でも分かるくらいに眉間に皺を寄せた俺に、記者は「あぁ、すまないね」とニヤついた笑みを浮かべて話した。

「…なんですか」

「名乗りもせずに失礼しましたぁ。こういう者でして…」

差し出された名刺を見た。
大手ではないけれど聞いたことはある出版社の名前が書いてある。
受け取りはしなかった。

「どういったご用件ですか」

「はははっ…″どういった″って、一つしか無いでしょう」

「さぁ?毎日毎日いろんな案件が飛び込んでくるので。どれのことなのか…」

「さすがは名門進学校の生徒会長様だ。お忙しいんですねぇ?」

「はい?」

「学園の生徒会長、朝之蜜くん」

記者が好感の持てない笑みを浮かべたまま、スマホの画面を俺の目の前にかざした。

画面に映っているのは登校中か下校中かは分からないけれど制服姿の俺の写真だった。
< 24 / 185 >

この作品をシェア

pagetop