甘い夜更け。朝を憎んだ。
「これは?」

「高校生はお小遣い問題が深刻だからねぇ。バイトをしたって満足のいく額を稼げるわけでもないし。だけど遊ぶ金はいくらあっても足らないでしょう?″謝礼を出す″って言えばなんでも簡単に手に入る時代ですから」

「へぇ。なるほど。教えてくれてありがとうございます。付き合う友人を考えるきっかけになりました」

「あぁ、それがいいでしょうねぇ。無論、こんなデータなんか無くてもきみを見つけ出すのは簡単だろうけど」

「なぜです?」

「データを売ってくれた方が言ってましたよ。生徒会長は誰よりも容姿が優れていると。取材を始めてからの期間、きみ以上に目を引く生徒さんには出会えませんでしたから」

「それはどうも」

「取材に協力してくれませんかねぇ?名門進学校からの女子生徒失踪。そのトップに君臨する生徒会長様からのお言葉。それだけで話題性は抜群なんですよ」

「お断りします。あなたの会社が他社に敗北して傾こうが、あなたやご家族が明日の食事に困ろうが俺の腹は一切痛みませんから」

「ははっ…なかなかのキレ味をお持ちのようだ」

「どうしてもとおっしゃるのなら…」

俺は取り出した名刺を、記者を真似て差し出した。

「初めにこちらにご連絡いただけますか?母を介してでしたら少しくらいはお相手しますよ。俺って周りが思うほど賢くないんですよ。あれこれ喋ったはいいものの、プライバシーの侵害やらなんやらで彼女のご両親に訴えられでもしたらたまらないですから。それと、俺の写真や個人情報の件も踏まえて。プロを交えて話しませんか?」

記者に差し出したのは弁護士である母の名刺だった。

ぴくりと眉を動かした記者は俺同様、名刺は受け取らずに短く溜め息だけを吐いた。
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