甘い夜更け。朝を憎んだ。
「蜜くんおはよ」

教室に向かう階段の踊り場で降りてきた女子に声をかけられた。

「おはよ」

「さっき校門でおじさんに捕まってたでしょ」

「ん。なんで知ってんの」

「教室の窓から見えてたよ」

なぜか女子は少し得意げに口角を上げて、俺と女子の間の五段分の距離を縮めた。

「なに?」

「そろそろ来るかなって思って迎えにきちゃった」

「なんで」

「もー。ほんといじわるだよね」

女子が自分のネクタイをキュッとつまむ。
その合図に気づかないふりをしてもよかったんだけど、
なんとなくあの記者のせいでささくれた気分を発散させてくれるのなら利害が一致するし、この女子だって共犯なんだから罪悪感も無くて済む。

女子に背を向けて、上ってきた階段を降りていく俺に「待ってよっ」って腕を絡めてくる。

すれ違う生徒達が二人から遠慮気味に視線を逸らす。

どいつもこいつも頭の中は「そればっかり」で平和ボケだなと思う。

自分とは遠くない、まったく無関係ではない場所で一人の人間が姿を消していても。
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