甘い夜更け。朝を憎んだ。
「ホームルーム終わっちゃったかな」

呼吸を整えながら、そんなことどうだっていいくせに善良な生徒のふりをして微笑む女子の耳たぶに触れる。

「もうダメだよ。一時間目もサボりになっちゃう」

「いや?」

「…ダメな生徒会長」

「きみは全然ダメじゃなさそうだね」

「蜜くんのそういういじわるなとこ、好きになっちゃうからダメなのっ」

「ダメ」と言ったくせに女子は俺の目元やくちびるに指先で触れながらなかなかきちんと制服を着直そうとはしなかった。

「でも蜜くんはわざわざ私なんかの相手する必要もないのにね」

妙な猫撫で声だった。

「どういう意味?」

「近くにあんなにきれいな子が居たのに」

「あぁ…夜乃とばりのこと?」

「やっぱ自覚あるんだ?」

彼女でもないくせに「彼女らしい」表情でむくれて見せた。

「俺のことじゃないのに″自覚″って面白いね」

「蜜くんのことだよ」

「違うでしょ。夜乃とばりのことでしょ」

「蜜くんの意識がってこと!夜乃さんのこと″きれいな子″だって自覚してるじゃない」

「それはまぁ…そうなっちゃうよね。夜乃とばりの美しさは誤魔化しようがないから」

「ふーん。嫉妬しちゃうな」

「嫉妬?なんできみが?」

「そりゃするわよ。蜜くんと肌を重ねたのは私なのに」

「えーっと…知らないわけはないと思うから単刀直入に聞くけどさ。俺が″こういうこと″してるの、きみだけじゃないよ。それは大丈夫なの?」

「それは全然平気!」

やっと満面の笑みになった女子を驚いて数秒間見つめる形になってしまった。

夜乃とばりに「美しい」と言っただけであんなにむくれていたのに、この子は笑顔の使い道を間違っている気がする。
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