甘い夜更け。朝を憎んだ。
だけど俺はひっそりと拗ねてもいた。
卑屈にすらなった。

夢が無かったから。

夢は人間を輝かせた。
まるで夢を持っていない人間がそれだけで頭のイカれた劣等種、つまんない人間だと見做されているような気すらした。

将来の夢も野望も、希望も無い。
祖父が望む通りに「一流」の人生をスマートに生きて、会社を継ぐ。

それだけで家族は俺を立派な人間だって認めてくれるだろう。

夢が無くても。
それに一喜一憂したり、苦しくてもがいたり、ほんのちょっとのチャンスに胸を躍らせたり。
そんな光を持っていなくても、それを隠すくらいはきっと容易い。

それでも羨ましかった。
自分が粗悪品にすら感じた。
夢も持てない、感情も無いアンドロイドにでもなった気分だった。

だから女を抱いた。

俺の心の中に引かれた一枚の暗幕は、夢を隠す。
光を閉ざす。
未だに感じたことのない美しさを、心が壊れるほどの感動を、どこにでもいいから見つけたかった。

俺を求めてくる女に興味なんか持てなかったけれど、
こいつらの中には俺よりも立派な感情があるのかもしれないなんて思うと、それを俺の腕の中で壊してしまえる感覚は少し心地よかった。
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