甘い夜更け。朝を憎んだ。
「こんなこと言いたくないけどさ」

「うん」

「夜乃さんが居なくなってホッとしてる人、結構いるんじゃないかな」

こんなこと言いたくない、と言った女子は、
「言いたくない」ことが本当に本心なのだろう。
目を伏せて、太ももの辺りで自分の左右の指を絡ませた。

女子のまつ毛が思っていたよりもナチュラルに長かったことに今更になって気がついた。

「なんで人が居なくなって安心するの」

「夜乃さんがいると自分のポンコツが際立って怖いから」

「あはは。ポンコツ、かぁ」

「それは蜜くんもおんなじだよ」

「俺?」

「私達が思春期らしく夜乃さんが持っている物に嫉妬しちゃうように、男子は蜜くんへの嫉妬で忙しいんじゃないかな。殺しちゃいたいくらいに」

殺したい。
そう言ってニッと口角を上げて、ジッと俺を見据える女子の瞳はきれいだった。

「気をつけるよ。殺されないように」

「大丈夫だよ。蜜くんが殺されちゃったら、学園中の女子がそいつを殺すから」

「頼もしいね」

結局、中途半端に余ってしまった一時間目に出席する気分になんてなれなくて、
せっかく俺に結ばせたネクタイを、女子はまた俺に解かせた。

耳の奥にまで届きそうな甘ったるい声を聴きながら、うろ覚えだったその子の名前を囁いてみたら一層高い声が空き教室に響いて、そっと口を塞いであげた。
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