甘い夜更け。朝を憎んだ。
教室に戻る途中の廊下で教師に呼び止められた。
一時間目の科学担当の教師だった。

スッと整った骨格に小さい顎。
ナチュラルにそんな鼻筋を手に入れているなんて、それだけで妬みの対象になりそうなくらい、端正な顔立ち。
派手すぎない暗めのブラウンで、すとんと真っ直ぐに胸まで伸びたヘアスタイルもよく似合っている。

美人、ってだけで持て囃されるのに、実験がある日は白衣を纏っていて、
男子達の「欲望」を一層掻き立てる教師だった。

今日も実験があったのか白衣姿だった。
だとしたら一時間目は教室じゃなくて科学室だったんだなって、もう今更どうでもいいことを思った。

「朝之くん、欠席してたわね。どうかしたの?」

「あー…すみません。もう夏休みじゃないですか」

「そうね。来週には」

「昨日、生徒定例会だったじゃないですか」

「そうみたいね」

「学園に提出する資料がまとまってなかったんですよ。生徒会室で朝からやってたんですけど気づいたら授業が始まっちゃってて」

「何分くらいに気づいたの」

「十五分くらい?」

「まだまだ授業は終わらない時間ね」

「そうかも?」

「生徒会室って科学室から遠かったかしら?」

「別校舎ですから」

「どれくらいかかる?」

「…五分くらい?」

「間に合ったわね、全然」

「もういいかなって」

「私の授業はもういいかなって?」

「もう…いいかなって」

「なーにヘラヘラしてんのよっ!」

教師が俺の髪の毛をぐしゃぐしゃと乱した。
そんなに身長が高いほうではないその人は、ちょっと背伸びをしてまで、そうした。

これが思春期真っ盛りの他の男子生徒だったら。
それだけでこの人に恋をするんだろう。
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