甘い夜更け。朝を憎んだ。
「でもさ」

副会長が会長席の前のほうへ回ってきた。

ハンディモップの肢を伸ばしたり縮めたり、折りたたんだりしながら言った。

「とばりちゃん、実際あんまり良くない噂もあったよね」

「良くない噂?」

生徒会室を見渡した副会長は声を潜めて話した。
周りが騒がしいわけじゃないからあんまり意味ないと思うけど。

「いわゆるパパ活みたいな?そういうことしてたり、夜に繁華街で補導されたりしたらしいよ」

「それ信じてんの?」

「なんで?」

「歩道とかされたんならさすがに俺らの耳にも入ると思うんだけど。夜乃さん、生徒会役員なんだから」

「それもそっか。じゃあ補導はされてないとして、パパ活みたいなことの真意は分かんないね」

「″みたいなこと″って?」

「実際パパ活なのか、もっとこう…エンコーとか?」

「エンコーって、援交?援助交際のこと?」

「そ」

「パパ活と変わんないね」

「変わるわよ」

「なんで?」

「分かんないけどさ。パパ活はなんていうかこう…もっとライトな感じするじゃない?」

「するかなぁ」

「援交はもっとイケナイ感じがする。パパ活より体も使っちゃうっていうか」

「パパ活だってそれぞれでしょ。体使うかどうかは本人次第だし。性を使って大人から金銭を搾取する行為にライトも何もないと思うんだけど」

「あっはは…なんか面白い」

「何が?」

「案外そういうとこはまともなんだなって」

「どういう意味?」

「そういうの、蜜のほうが得意なんじゃないの」

悪戯に微笑む副会長に、俺も曖昧に微笑み返した。

どういった意図を含んだ煽りかは分からないけれど、副会長に特別悪意も感じない。
「蜜、呼吸するのじょうずじゃん」って当たり前のことを言っているのと変わらない言い方だった。
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