甘い夜更け。朝を憎んだ。
ぼーっと海を眺めていたら従姉妹が俺の前髪に触れた。
こんなに灼熱地獄なのに指先が冷たくて肩を揺らしてしまった。
「通常」と異なることに体が敏感に反応してしまう。

「前髪伸びたね」

「一年ぶりだってこと、もう忘れちゃった?」

「私の記憶はそうなんだからしょーがないでしょ」

目に少しかかるくらいの前髪。
一年前の夏は確かにもう少し短かった気がする。

「そっちは髪、切ったんだね」

胸の下辺りまであったストレートの長髪が、今は顎より少し上までの短さになっていて、パーマなのか自分で巻いているのかは分からないけれどふわっとしていてよく似合っている。

「蜜」

「ん?」

「夜、本家に集まるでしょ」

「あー、そうだね。また大騒ぎになるんだろうな」

地元に残っている親戚、地方に出た親戚達も一斉に帰省してきて、夜はどんちゃん騒ぎになる。
祖父の家系は一様に酒呑み集団だ。
結婚相手や子ども達の引いた様子なんてお構い無しにお祭り騒ぎが連日続くことになる。

「めんどーだからさ、途中で抜けようね」

「ね、って俺に拒否権はないんだ?」

「ないよ。あると思った?」

「思わないけど」
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