甘い夜更け。朝を憎んだ。
本家のすぐ横に蔵が建っている。
この先の未来で本当に必要なのか、誰が把握して管理しているのかすらも不明な、本家にとっては「歴史的な何か」が保管されている。

従姉妹が両足を踏ん張って、両腕いっぱいに力を込めて蔵の扉を引き開けようとする。
もうずいぶん古い建物だから木製の扉もあんまり衝立が良くなくて相当に重たそうだった。

俺も一緒に手伝うと重く軋んだ音を立てながら扉は開いた。

「バレちゃったかな?」

「あの人達の声のほうが大きいよ。聞こえないでしょ」

「そうだよね」

従姉妹はにっこりと笑って蔵に足を踏み入れる。
真っ暗で埃っぽくて、本家の窓からの明かりだけが、蔵の中にまでは届かずに、夜に浮かび上がっている。
雑な月みたいだった。

目が慣れてくると従姉妹の姿もぼんやりと認識できるようになる。
表情まではあまり分からないけれど。

「鍵、どうしたの」

「夕方のうちに開けといた。あの人達は宴会の準備のほうが大事だからなーんにも気づかないよ」

「ねぇ、お風呂入ったの?」

近づいた従姉妹の肌から石鹸の香りがふわりと漂う。

昼間に見た時よりもボリュームの落ち着いたストレートヘア。

「巻いてたんだね。昼は」

「え?」

「髪」

「あぁ。パーマだと思ってた?」

髪先に触れるとまだ少し濡れていた。
暗闇の中。
はっきりとは見えないけれど、ナチュラルに施していたメイクもオフされていて、本来の、まだ少し幼さの残る目元が認識できるようになってくると、妙に欲を掻き立てられる。
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