甘い夜更け。朝を憎んだ。
「こっちにはどれくらい居るの」

荒かった従姉妹の呼吸が穏やかになった頃、かすれた声でうわごとのように訊かれた。

「三日間だけ」

「明後日には帰っちゃうの?」

「んー」

「もっと居ればいいのに」

「母さん達は一週間くらい居るよ」

「おばさん達が居たってしょーがないでしょ!」

名残惜しく思うのは俺が目の前に居るからだ。
目の前から居なくなって一日、二日も経てば…いや、どうせその日のうちには忘れてしまうくせに。

「平気だよ。俺なんかよりも、もっと大事なものがあるから」

「…変なの。てかさ!」

あっついね…って言いながら、着直したキャミソールの裾を整えながら従姉妹らしい無邪気な声で言った。

「どうしたの」

「蜜のとこ、ちょー大変なことになってんね」

「…あー、学園のこと?」

「そうそう。実際どーなの?」

「どうって?」

「″美少女失踪事件″とかって言われてんじゃん。でも事件ってさ、何かと″美少女″とか″美人″とか付けたがるよね。本当は大抵そんなことないのに」

「本当だよ」

静かに言った俺を従姉妹はゆっくりとしたスピードで見た。
俺も従姉妹を見返したら不思議そうに首を傾げてきた。

「本当に?」

「ほんとう」

「蜜から見ても?」

「誰から見ても」

「へぇ…そんなことってあるんだ」
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