甘い夜更け。朝を憎んだ。
「嫉妬しちゃうなぁ、さすがに」

「なんで?」

「蜜の口から直球でそういうこと言われればさ…そりゃ女子は妬くでしょ」

「事実を言っただけだよ。トマトは赤いね、とかキリンは首が長いね、とか。それと変わんない」

「もー。そういうことじゃないのに。蜜はいつもそうやって誤魔化すんだから」

もっかいお風呂入んなきゃ、って従姉妹はどこか不服そうだった。
自分がしたくて真夏の夜にこんなことをしているくせに、まるで俺のせいみたいな言い方だった。

「俺もお風呂入ろ」

「一緒に入る?」

「んなわけ。おじさんに殺されるわ」

「かもね。てかさ、」

「うん?」

「SNSでもその″美少女″の話題ばっかじゃん」

「夜乃ね」

「え?」

「夜乃とばり」

「あー、そうそう。やっぱ美人は名前も特別なんだなーって思った記憶ある」

「夜乃の話題って?良くない噂のこと?」

「それもだけど。てかやっぱそうなの?」

「そうって?」

「パパ活とか、夜のバイトみたいなことしてるとか、家庭環境がどうとか」

「知らないよ」

「知らないの?」

「知らないね。夜乃は確かに生徒会役員だったし、学年違いにしては他よりは接点はあったと思うよ。夜乃も一年の頃だから二年間は一緒だったわけだし。でも俺達は友達でも恋人でも家族でもなかったから。上辺の夜乃しか知らないよ」

「そんな素振りもなかったの?」

「あるわけないよ。そんなことしててひけ散らかすような態度だったらそれこそ夜乃はクレイジー過ぎるし、そんなの逆に好感持っちゃうよね」

「なんでよ。変なの」

「そこまでイカれてるとさすがに興味湧くでしょ」

鼻で笑った俺に従姉妹は短く息を吐いた。

従姉妹が、周りの人間達が理解できるはずはない。
イカれでもしないとまともなふりをして生きてなんていけない奴の感情は。
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