甘い夜更け。朝を憎んだ。
「でもさ、夜乃とばりさんの裏の顔?っていうの?それが本当なら、夜乃とばりさんは被害者なのに全然擁護されないね」

「夜乃が″被害者″だって決まったわけじゃないけどね」

「そうなの?」

「幼い子どもならほぼ誘拐だろうけど。十七歳の、はっきりと自我も分別もつく、ほとんど大人だからね。自分の力で消えようと思えばいくらでもできるでしょ。それに、」

「うん」

「夜乃が本当に女を売ってるとして、世間一般の常識で擁護されるかどうか決めるなんて、世の中はやっぱり狂ってるよね」

「いや、フツーはそうでしょ」

「普通はね。夜乃が抱えてる背景や感情は全部こっちの都合で殺してさ。まるで死人みたいに声も奪って何も言えなくして、大勢の大声で夜乃の声を掻き消すんだ。狂ってるよね。その噂だって流した連中の元を辿ることなんて不可能だろ。自分の発言がどれだけの波紋を呼んで、それによって人ひとりの人生を終わらせる力があるかもしれないなんて考えもしないんだ。責任の質量なんて綿菓子くらいなんだろうなぁ。本当に狂ってるよ。夜乃が生きてようが死んでようが結局は自分の人生には関係ないくせにどいつもこいつも平気な顔して追い詰めるんだから。大勢で一気にやるわけじゃないからいいって思ってる。誰かもやってるんだからいいって思ってる。夜乃はその塊に押し潰されて死んじゃうかもしれないのに」
< 55 / 185 >

この作品をシェア

pagetop