甘い夜更け。朝を憎んだ。
ごめん、って従姉妹が小さく呟く音が聞こえた。
だから従姉妹のすっかり渇いた髪をそっと撫でた。

「きみに言ってるんじゃないよ。ごめんね、怖かった?」

「反省した」

「きみに言ったんじゃないんだけど、解ってくれるんだったらうれしいな。いい子」

縋るような、甘えたような目。

夜乃の話題を出されたことは意外だったけれど、俺の気を引きたかったのかもしれない。
少なくとも俺は生徒会長で、この件に関して無関係だとは思わないだろうから。

「蜜が嫌ならもう言わないよ」

「別に俺のことでもないんだけどね。ごめんね、きつい言い方して」

従姉妹の瞳には、いつか俺が目の前から姿を消すと思っている色が宿る時がある。
普通に捉えれば俺と従姉妹は肉身であって、他人だけど他人よりは近い存在なのに。

その瞳こそが俺を対等な人間として見ていない証拠だった。
肉身であってもいつかは消えてしまう。ずっと一緒にはいられない存在として見なされている。

血の繋がりさえも、俺を誰かの中には縛りつけていてはくれない。

だったら夜乃があっさりと世の中の、他人だらけの、身勝手な好奇心の嫌な世界から、消えてしまいたいと願うのは当然のことだ。

こんな世界でなんて生きていたって心はずっと死んでるんだから。
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