甘い夜更け。朝を憎んだ。
庭には様々なガーデンテーブルが用意されていた。
それぞれに作業をしている人達から少し離れて、空いているテーブルにたっぷりのフルーツを持ち出した。

パイナップル、いちご、桃、ライチ、ぶどう。

パイナップルなんかはやっぱり使用人さんに任せたほうがいい気がする。

ライチを手に取って皮を剥いてみた。
甘い、あまり感じ慣れない香りがした。

人差し指と親指にライチの蜜が滴る。
そのまま来栖の口元に持っていったら来栖の瞳が動揺した。

「え…」

「蜜、甘いよ」

「蜜…くん…?」

「ふっ…違うよ。ライチ、甘そうだよ」

あぁ…とかなんとか呟いた来栖のくちびるにライチをちょん、とつけた。
うわくちびるで恐る恐る蜜を確かめるようにして舐め取った来栖は短い吐息を漏らした。

「蜜くん」

「おいしい?」

「あっち行きたい」

「ん?」

「みんなから見えないとこ」

「なんでー?だめだよ。探されちゃうよ?」

「お願い」

「だめです」

「いじわる」

「なんで?いじわるされたくて呼んだんじゃないの?隠れたいなんて嘘だよね?俺と居るとこ見て欲しくてこうしてるんじゃないの?」

「ちがっ…」

「違うんだ?じゃあこのままでいいね」

いちごを摘んだ俺の手首を来栖が掴む。
果実の蜜よりも、もっと潤んでるみたいな瞳。

今度はいちごを押しつけたら、上手に口内に含めることができなかった来栖の顎を伝って、
いちごの赤がボタボタっとこぼれた。

「ん…汚れちゃった」

来栖の白いブラウスに赤い染みができた。
全然嫌そうじゃなかった。

「俺はさ、来栖さんのことは全然知らないし」

「そんな…!」

「クラスの中で一番でも特別でもないんだよね」

「じゃあっ…!」

「″これから″もだめだよ?だってきみは今、いじわるされたいわけじゃないって否定したんだから。もうだーめ。せっかくのチャンスだったのに。残念だったね」
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