甘い夜更け。朝を憎んだ。
俺に執着しちゃうってはっきりと分かった。

この瞬間の来栖は俺がクズをやって、肌を重ねてきたどの女子よりもポジションが「下」だった。
ここまできて選んでもらえなかったことを来栖自身が実感して、
あの女子の言葉を借りるなら、プライドを保てなくなっている。

その毒から抜け出せない。
僅かに、焦らさせるように教えられた毒から来栖が抜け出せるとは思えなかった。

でも俺には必要ない。

来栖のような女の存在も。

プライドを確立したいだけのその場限りの体温も。

プライドや優越感なんてこれから先の未来への勲章にしたいだけのガラクタだ。
俺の存在その物が本当に必要なわけじゃない。

無くても生きていける。

俺の心が欲しいわけじゃない彼女達を酷く傷つけてしまいたくなったとして、
それに即効性はあるけれど、持続性は無い。

一過性の、致死力の無い毒。

こんな風に、

「ねぇ、取り消すから…お願い」

「興味がないんだ」

「興味?」

「だって俺は来栖さんじゃなくてもいいからね。きみだってそうでしょ?」

「そんなことっ…!」

「ふーん。きみがどんなに求めてくれたとしても俺は興奮もしないかな。きれいじゃないから」

「え…」

「本当にきれいなものを知っちゃったからね、どれも全部ガラクタだよ」

女であることを、尊厳をはっきりと音にしてぶつけたって。

「思い出」としてすら残らないのがオチだろう。

くちびるを噛み締めて肩を大きく上下させて息を吐き出した来栖は憤慨したポーズで大股で遠ざかっていった。

脳内にはずっと夜乃とばりの姿があった。
夏を忘れてしまったみたいな透けるような白い肌。

くだらない呪いにかかっているのは他でもない。
大馬鹿者は俺自身だ。
< 60 / 185 >

この作品をシェア

pagetop