甘い夜更け。朝を憎んだ。
「用事って夜乃さんのことだよね?」

俺の問いに佐藤はコクンと頷いた。

「もうすぐ二ヶ月ですね」

「そうだね」

「毎日、日を追うごとにとばりは悪女にされていってますね」

「そうだね」

「実際に被害者なんていないのに。週刊誌で匿名で取り上げられている″被害者のナントカさん″なんて百パーセント、デマですよ」

「分かってるよ」

「先輩は信じてくれるんですか?全部デタラメだって」

「当たり前でしょ。どう考えたって夜乃さんはそんな人間じゃない」

佐藤が何か言おうとしたことを飲み込んで、だけどやっぱり何か言いたそうにモゴモゴと僅かにくちびるを動かした。

何か言いたいのなら遮るようなことはしたくないし、佐藤が喋り出すのを待っていた。

一分くらいしてから、佐藤は再び話し出した。

「とばりが目障りだってことは分かります」

「目障り?」

夜乃になりたかった。
生徒定例会の日、そう言った佐藤は性格やメンタルにおける部分までそうしているのか、穏やかでやわらかい口調まで夜乃によく似ていた。

そんな佐藤からは初めて聞くような冷たく、抑揚のない口調だった。
何度も練習したセリフをようやく声に出したみたいな言い方だった。
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