甘い夜更け。朝を憎んだ。

実態

「朝乃先輩」

「髪」

「え…?」

「それも夜乃さんの真似?」

恐ろしく艶やかな黒髪。
胸の下らへんまで伸ばしていた姿も記憶にあるけれど、最後に見た夜乃の髪は肩に少しつくくらいだった。

そのヘアスタイルを佐藤はよく再現している。

毛先に触れる。

さっきまで俺のくちびると重なっていた佐藤のくちびるがほんの少しの隙間を作る。
惚けたような目をしている。

「佐藤さん、ほんとは黒髪じゃないでしょ」

「どうしてですか」

「光に当たるとちょっとブラウンに見えるから」

「なんで…」

「佐藤さんが言うようにずーっと夜乃さんの影に隠れてれば気づかなかったかも」

座ったまま、腕を伸ばして手のひらを佐藤の後頭部に添えた。

身長が高くない佐藤が首を俯けていれば簡単に届いてしまう。

佐藤を見上げるようにして、グッと引き寄せた佐藤のくちびるに乱暴にキスをした。

「せんぱっ………」

くちびるを離した佐藤の瞳が揺れている。

「それだよ」

「え…」

「そのブラウンの瞳。佐藤さん、夜乃さんよりずいぶんと色素薄いほうだもんね?髪もわざと染めてんでしょ。そんなに夜乃さんになりたかったんだね」

「っ…」

「呼び出したり回りくどい独白してみたり、俺にこんなことすんのはなんで?」
< 76 / 185 >

この作品をシェア

pagetop