甘い夜更け。朝を憎んだ。
「なにしてんの」

教室の前に設置されている自販機で買ったペットボトルのアイスティーを差し出しながら、夜乃の席まで行って話しかけた。

よっぽど集中していたのか、突然声をかけられた夜乃の肩がビクリと跳ねた。
三度、一定の間隔でまばたきをした夜乃が座ったまま俺を見上げた。

「飲む?」

差し出していたアイスティーのキャップに触れた。

夜乃がコクンと小さく頷く。

「あ、ごめん。勝手に開けちゃった。気持ち悪いよね」

キャップを外したペットボトルを掴んだまま夜乃に謝ると、夜乃はゆっくりと首を横に振って、受け取ってくれた。
一口飲んで、机に置かれたペットボトルに、握ったままだったキャップを被せた。

「佐藤さんは?」

「職員室です。日直なので」

「待ってるの?」

「はい」

「小説、面白い?」

「いいえ」

「あんなに集中してたのに」

「ページをめくってただけです。おすすめだから読んでみてって友達が貸してくれて。本当に面白いんだろうけど、恋とか友情とか私にはよく分からないから」

「そっか。どんな話なの」

「…説明できません。ページをめくってただけだから」

苦笑う夜乃に、俺も微笑み返した。

確かに夜乃は何かが欠落していたのかもしれない。
年齢に相応しいだけの青春の思い出も感情も、夜乃の中には無い。

友達がおすすめだと胸を躍らせていたラブストーリーに、
同じように「いい」と思えない自分に傷ついているみたいだった。
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