甘い夜更け。朝を憎んだ。
「蜜先輩こそどうしたんですか」
佐藤は俺を「朝之先輩」と呼ぶけれど、
夜乃は「蜜先輩」と呼んでいた。
そう言えば、夜乃になりたかった佐藤は、そこだけは真似しなかったんだな、と今更になって思った。
夜乃が呼ぶ俺の名前はどんな誰の、どんな口調よりも甘ったるく感じた。
「校舎の修繕依頼のこと、あったでしょ。あれの確認」
「一人でですか?」
「十分だよ。見て回るだけだから」
「こんなに広いのに」
「別に暇だから大丈夫だよ。ありがとう」
「どういたしまして」
夜乃がやわらかく笑った。
「じゃ、夜乃さん達も早く帰りなね」
ポケットから一枚のメモ用紙を取り出して、夜乃が読んでいた小説のページに挟んだ。
「これ」
「しおり代わり。ほんとに読んでますってフェイクにはなるでしょ?」
口角を上げて少女らしい笑顔を見せる夜乃も、
義務じゃない、なんでもない会話を二人で交わすこともその日が初めてで、
学園で夜乃とばりを見たのも、その日が最後だった。
佐藤は俺を「朝之先輩」と呼ぶけれど、
夜乃は「蜜先輩」と呼んでいた。
そう言えば、夜乃になりたかった佐藤は、そこだけは真似しなかったんだな、と今更になって思った。
夜乃が呼ぶ俺の名前はどんな誰の、どんな口調よりも甘ったるく感じた。
「校舎の修繕依頼のこと、あったでしょ。あれの確認」
「一人でですか?」
「十分だよ。見て回るだけだから」
「こんなに広いのに」
「別に暇だから大丈夫だよ。ありがとう」
「どういたしまして」
夜乃がやわらかく笑った。
「じゃ、夜乃さん達も早く帰りなね」
ポケットから一枚のメモ用紙を取り出して、夜乃が読んでいた小説のページに挟んだ。
「これ」
「しおり代わり。ほんとに読んでますってフェイクにはなるでしょ?」
口角を上げて少女らしい笑顔を見せる夜乃も、
義務じゃない、なんでもない会話を二人で交わすこともその日が初めてで、
学園で夜乃とばりを見たのも、その日が最後だった。