甘い夜更け。朝を憎んだ。
夜乃、佐藤と同じ小学校に通っていた幼馴染の彼は中学まで一緒に通い、高校では離れたらしい。

彼が通っている高校は隣町にある専門校だった。
普通科よりも通常の基礎教科の授業は必要最低限に、就職に向けて専門的なジャンルを学べる、人気の高校だということは俺も知っていた。

彼はそこで美容師としての知識を学んでいる。
だからとばりにも髪の毛のことでよく「指導」していたんだと佐藤は楽しそうに話した。

漆黒の恐ろしく艶やかな黒髪。
夜乃がそれすらも手に入れられたのは彼のおかげなんだろうか。

夜乃の失踪についてひどく心を痛めているらしい。
たまに向こうから連絡が来ては佐藤が慰めたり、夜乃との思い出話をしたりするらしい。

なんだか既に夜乃が死んでしまっているみたいな時間だな、とは思ったけれど言わなかった。

「その子、ちょっと興味あるな」

「え、そうですか?」

「佐藤さん達と互角、って言うと変だけど。関わりが持てる同年代の男子なんて、気になるでしょ」

「とばりはそうでしょうけど…私は…」

「なんで?夜乃さんと親友でいられるのも佐藤さんだからでしょ」

「そんなわけ…!」

「そうだよ」

佐藤の横髪をすくって耳にかける。
指先が耳たぶに触れる。
佐藤がゴク、と喉を鳴らした。

その翌日の夜八時頃。

地元、と言っても大差ない隣町を舞台に、テレビやインターネットニュースを騒がせる事故が発生した。

男子高校生が通過する特急電車に向かって飛び込んだのだという。
もちろん即死。

報じられた名前は昨日、佐藤アマイが教えてくれた、夜乃とばりの幼馴染だった。
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