甘い夜更け。朝を憎んだ。
金曜日の放課後。
教室を出ようとしたところを来栖に呼び止められた。

「なに?」

「明日って空いてる?」

「なんで?」

「あ、やっぱ気づいてないんだ」

「なにが?」

「夏休みにバーベキューした時、忘れ物してたよ。返したくて」

「忘れ物…?なに?」

「鍵。なんのかは知らないけど」

「じゃあ俺のじゃないよ。鍵なんて自宅の以外持ってないし」

「絶対蜜くんのだよ」

「なんで?」

「蜜くんの名前が刻印されてた」

「だったら尚更勘違いでしょ。そんな鍵持ってたことなんてないよ。それに鍵くらいの大きさなら持ってくればよかったのに」

「忘れちゃったから言ってんの!」

「どうせ俺のじゃないから急いでないよ」

「どうしても今週末中には返したいの!ずっと持ってるの嫌だから」

冷静になって考えてみた。
そんな鍵、本当に持っていない。

ミツが含まれる名前ならそんなに少なくないだろうし、
けっこうな人数が参加していたように思う。

俺のでは絶対にないのに、来栖は絶対に俺の物だと思っている。

どれだけ言っても来栖は引き下がってくれそうになかったし、
次第に面倒になってきて、それなら直接見て否定すれば満足するんだろうと思った。

逆にそうでもしなければ来栖は一生引き下がらない気がした。

「分かったよ。絶対に違うけど見にいく」

「よかった!私は何時でもいいから。待ってるね」
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